海底ケーブル新設ラッシュ、なぜ?容量720Tbpsの計画と地政学リスク

海底ケーブル新設ラッシュ、なぜ?容量720Tbpsの計画と地政学リスク

湾岸協力会議(GCC)地域で、過去最大規模となる毎秒720テラビット(Tbps)の容量を持つ海底ケーブル「Fibre in the Gulf(FIG)」の計画が進んでいる。この動きは、世界中で加速する海底ケーブル新設ラッシュの一端に過ぎない。背景には、AIやクラウドサービスの爆発的な普及によるデータ通信量の急増と、デジタル経済の生命線となる通信インフラの冗長性を確保したい各国の思惑がある。現代社会の根幹を支える海底ケーブルは、今、大きな変革期を迎えている。

デジタル経済の生命線、各国が競う新ルート確保

南米スリナムの国営通信事業者Telesurは、欧州やブラジル、米国と直接接続する「EllaLink」への参加を表明した。これは、単一の国際ルートへの依存から脱却し、今後10年で寿命を迎える既存ケーブルを代替する狙いだ。この新接続は、25年の設計寿命を持ち、スリナムの2030年に向けたデジタル変革を支える基盤となる。

アフリカのギニアでも、13年ぶりとなる2本目の海底ケーブル敷設契約が結ばれた。初代ケーブルがデータ需要の増大で飽和状態に近づく中、新たなインフラで通信容量を3倍に増強し、経済成長を後押しする構えだ。カリブ海の島国キュラソーもまた、新たな国際海底ケーブル「CELIA」への接続手続きを開始。観光や金融といった主要産業に不可欠な、高速で安定したインターネット環境の確保を急いでいる。

これらの動きに共通するのは、デジタル経済における海底ケーブルの重要性だ。1本のケーブルに依存する危うさ、そして通信障害が経済活動に与える致命的な影響。それを回避するため、各国は競うように新たな「デジタル・シルクロード」の確保に乗り出しているのだ。

毎秒720テラビット、湾岸で進む超大容量ケーブル計画

特に注目すべきは、湾岸地域で計画が進む「FIG」プロジェクトだろう。カタールのOoredooグループが主導し、UAEの通信事業者duと提携して陸揚げ局を設置するこのケーブルは、24対の光ファイバーで最大720Tbpsという前例のない伝送容量を実現する。

この超大容量は、特定の消費者向けサービスのためだけではない。その主な目的は、「ハイパースケーラー、クラウドプロバイダー、AIプラットフォーム、データセンター事業者」といった、膨大なデータを扱う企業群の需要に応えることにある。AIの学習や運用、巨大なクラウド基盤のデータ連携には、低遅延かつ大容量の通信網が不可欠であり、FIGはそのための重要なインフラとして設計されているのだ。

地政学リスクの高まり、ホルムズ海峡で狙われる通信網

しかし、海底ケーブルの重要性が増すにつれ、新たなリスクも顕在化している。世界の国際データ通信のほぼ全てを運ぶこのインフラは、これまで以上に紛争や地政学的な緊張に晒されるようになった。

その象徴が、世界の物流の要衝であるホルムズ海峡だ。この海域には欧州、アジア、湾岸諸国を結ぶ5つの主要な海底ケーブルシステムが集中している。しかし、中東情勢の緊迫化を受け、2026年3月にはUAEの陸揚げ局が直接攻撃される事態が発生。ケーブルプロジェクトの中断や、敷設・保守にかかる保険料の高騰を招いている。イランが機雷の敷設を示唆するなど、意図的な破壊活動の脅威も現実味を帯びてきた。

多くの人がインターネットを「雲(クラウド)」の上にある無線通信のようにイメージするかもしれない。だが、その実態は海の底に敷かれた物理的なケーブルである。この脆弱な生命線が、今や安全保障上の脅威に直面しているのだ。

国連も動く、海底ケーブル保護という新たな国際課題

こうした事態を受け、国連の専門機関である国際電気通信連合(ITU)も対策に乗り出した。ITUは海底ケーブルの保護と強靭化を目的とした新たなグローバル諮問機関の設立を発表。ケーブルの敷設や保守を行う事業者団体と連携し、国際的なガバナンスの強化を目指す。

海底ケーブルは、もはや単なる通信事業者の資産ではない。国家の経済活動、安全保障、そして市民生活を支える死活的に重要なインフラであり、その保護は国際社会全体の課題となりつつある。技術革新による大容量化と並行し、地政学リスクからいかにこのインフラを守るか。国際協調を通じた新たなルールの構築が、今まさに求められている。

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よくある質問

海底ケーブルが切れたらインターネットは使えなくなりますか?
多くの主要な通信ルートは複数のケーブルで冗長化されており、1本が切れても直ちに大規模な障害につながることは稀です。通信は自動的に別のルートへ迂回しますが、地域やサービスの構成によっては速度低下や不安定化が起こる可能性があります。
海底ケーブル1本でどれくらいのデータを送れるのですか?
技術の進歩は著しく、最新のケーブルは非常に大容量です。例えば、湾岸地域で計画されている「FIG」ケーブルは、24対の光ファイバーで毎秒720テラビット(Tbps)の伝送能力を持つ設計です。これは一般的な家庭用光回線の数百万回線分に相当します。
なぜ今、世界中で海底ケーブルの新設が相次いでいるのですか?
AI、クラウド、高画質動画配信サービスの普及により、世界のデータ通信量が爆発的に増加していることが最大の理由です。また、約25年とされるケーブルの設計寿命に合わせて既存インフラを更新する動きや、特定の国やルートへの依存を避けて通信の安定性を高める地政学的な目的もあります。

出典

    海底ケーブル通信インフラ地政学AIデータセンター