海底ケーブルが切れたらどうなる?

海底ケーブルが切れたらどうなる?
国際通信の99%は、海の底を這う細いケーブルが運んでいます。総延長およそ140万km、地球を35周できる距離です。もしこの線がサメに噛まれたり、船の錨に引っかかって切れたら、私たちのネットは止まるのか。結論から言えば、1本切れた程度では止まりません。世界中のケーブルが網の目のようにつながっているからです。本記事では、切断の本当の原因、深海での復旧の仕組み、そして近年高まる地政学リスクまで、通信インフラを10年取材してきた立場から具体的に掘り下げます。 ## サメがケーブルを噛むのは本当、でも障害原因の1%未満 「サメが海底ケーブルを噛みちぎる」という噂は長く語り継がれてきました。火付け役は、Googleが公開したサメがケーブルに食らいつく映像です。攻撃そのものは実在します。 ではなぜ噛むのか。有力なのは電磁場説です。サメは獲物の筋肉が発する微弱な電気を感知して狩りをするため、ケーブルを流れる給電電流の電磁場を獲物と取り違えてしまう、という説明になります。もう一つは単純な好奇心。縄張りに現れた見慣れぬ物体を、とりあえず噛んで確かめているだけ、というわけです。 ただ、現実の数字は印象と食い違います。国際ケーブル保護委員会(ICPC)の統計では、サメを含む魚介類が原因の障害は全体の1%にも届きません。いまのケーブルは鋼線を編んだ鎧状の外装で何重にも守られ、歯が内部の光ファイバーまで到達することはまずないのです。水深1,500mより浅い沿岸では海底に埋設する工法も普及し、接触そのものを防いでいます。サメの脅威は、技術の前にほぼ過去のものとなりました。 ## 切断の3分の2は錨と底引き網——犯人は人間 では、何がケーブルを切るのか。最大の原因は人間の営みです。 障害のおよそ3分の2は、船が落とした錨の引きずりと、底引き網漁によって起きています。海図にはケーブルの位置が記されているにもかかわらず、違法操業や不注意で重い錨が線を引っかけ、傷つける事故が絶えません。漁場とケーブル網が重なる海域ほど、その確率は高くなります。 自然の力も侮れません。2006年12月の台湾沖地震では複数の海底ケーブルが同時に断線し、日本から東南アジア・欧州へ向かう通信が大規模に乱れました。多くの企業の国際ネットワークが麻痺し、完全復旧まで数週間を要したのです。この一件は、海底ケーブルが現代社会の土台そのものであることを白日の下にさらしました。 ## 1本切れてもネットが止まらない「メッシュ構造」の正体 ここまで読むと、ケーブルが1本切れただけで大混乱に陥るのでは、と身構えるかもしれません。鍵を握るのは冗長性です。 日本は、太平洋を渡る「FASTER」やアジア各国を結ぶ「Asia Pacific Gateway(APG)」など、多数の海底ケーブルで世界とつながっています。これらはクモの巣のようなメッシュ構造を成し、どこか1ルートが落ちても通信は瞬時に別ルートへ迂回します。工事中の道をカーナビが自動で回避してくれるのと同じ理屈です。だから私たちは断線に気づかないまま、ネットを使い続けられます。 もっとも、万能ではありません。台湾沖地震のように主要ケーブルが同時に被災すると、全体の通信容量が逼迫し、速度低下や一部サービスの遅延が表面化することはあります。 ## 水深8,000mからケーブルを吊り上げる修理船の仕事 切れたケーブルは、どうやって直すのか。深海に人は潜れないため、専用の修理船が出動します。 まず障害点を電気的に特定し、船から「グラプネル」と呼ばれる錨形の器具を海底へ下ろしてケーブルを探り当てます。水深8,000mに沈んだ線を引っかけ、海面まで吊り上げる作業は、糸ほどの細さの線を数kmの深さから手繰り寄せる精密さを要します。引き上げたケーブルは傷んだ区間を切り落とし、新しい区間を継ぎ足して光ファイバーを1本ずつ融着接続。繋ぎ直したケーブルを、再び慎重に海底へ戻します。 1回の修理にかかる期間は、順調なら数日。悪天候や船の手配しだいでは数週間に及びます。世界で稼働する修理船はわずか60隻ほどしかなく、需要に対して慢性的に足りていません。この船舶不足こそ、復旧を遅らせる隠れたボトルネックです。 ## 通信線から「戦略インフラ」へ——紅海事件が示す次の脅威 2024年、紅海で複数の海底ケーブルが相次いで切断されました。フーシ派による攻撃が疑われ、ケーブルが地政学の標的になりうる現実を突きつけた事件です。アジアと欧州を結ぶ大動脈が集中する海域だけに、影響は一国にとどまりませんでした。 海底ケーブルはもはや単なる通信線ではなく、国家の経済安全保障を左右する戦略インフラへと位置づけが変わりつつあります。各国が敷設ルートの分散や監視体制の強化を急ぐいま、深海を走る細い線をどう守るかは、次の10年の通信を決める静かな主戦場になっていくでしょう。

この記事は信頼性の高い業界情報源に基づき作成し、編集部が内容を確認・監修しています。お気づきの点はお問い合わせよりお知らせください。

よくある質問

海底ケーブルがサメに噛まれるというのは本当ですか?
はい、サメがケーブルを噛むことは実際にありますが、ケーブル障害全体の1%未満と非常に稀です。好奇心やケーブルから発生する電磁場が原因と考えられていますが、現代のケーブルは鋼線などで頑丈に保護されています。
もし日本につながる海底ケーブルが切れたら、インターネットは使えなくなりますか?
いいえ、すぐに使えなくなることはありません。日本は複数の海底ケーブルで世界と結ばれており、1本が切れても通信は自動的に別のルートに切り替わります。ただし、複数のケーブルが同時に損傷すると、通信速度が低下する可能性はあります。
切れてしまった海底ケーブルはどうやって修理するのですか?
専門のケーブル修理船が現場へ向かい、鉤爪のような装置でケーブルを船上へ引き揚げます。損傷部分を交換し、光ファイバーを精密に接続し直してから、再び海底へ慎重に沈めます。この修理には数週間から1ヶ月以上かかることもあります。

出典

海底ケーブル通信インフラ