海底ケーブルの天敵TOP5:1位は漁網、サメは圏外
基礎から押さえる
海底に眠る光ファイバーケーブルの全障害のうち、漁船の底引き網が原因のものは約40%を占める。サメではない。地震でもない。毎年世界中で起きる断線事故の4割近くを引き起こしているのは、漁業という営みそのものだ。
ISCPC(国際ケーブル保護委員会)が長年収集してきた障害データは、多くの人が抱くイメージとかなりずれている。以下のランキングは、その統計に基づいた「本当の天敵」だ。
## 圏外:サメ咬みつき——全体の1%未満、語られすぎの天敵
まず片付けておきたいのがサメだ。1980年代、大西洋に敷設された光ファイバーケーブルにサメの歯の痕が発見され、メディアが騒いだ。サメは「ロレンチーニ器官」と呼ばれる電場感知能力を持ち、ケーブルが放つ微弱な電気信号をエサと誤認して噛みつくとされる。
Googleが2014年に太平洋横断ケーブルにケブラー繊維の外装を追加したというニュースも記憶している人がいるだろう。ただし実態は違う。全障害の1%未満——統計上はほぼ誤差の範囲だ。あの発表も「念のための予防措置」であり、深刻な被害が続いていたわけではない。
サメが突出して語られるのは、ひとえに「話題性」のせいだ。業界関係者にはもはや笑い話に近い。
## 第4位:自然災害——38日間孤立した島国が示す「1本依存」の怖さ
頻度は低いが、起きれば被害は桁違い。2011年の東日本大震災では、海底地滑りによって太平洋側の複数ケーブルが同時に切断された。
2022年のフンガ・トンガ海底火山噴火はより象徴的な事例だ。島国トンガが持つ唯一の国際ケーブルが寸断され、人口約10万人が38日間にわたってインターネットをほぼ使えない状態に陥った。衛星通信で最低限の接続は確保されたが、帯域幅の差は絶大で、通常の経済・行政機能の維持は困難だった。
自然災害そのものへの対策は難しいが、被害を最小化する手段はある。ルートの冗長化だ。日本のように複数のケーブルが異なる経路で引かれている国は、1本が切れても通信が完全に途絶えることは稀だ。トンガの悲劇は「1本依存」の危うさを世界に示した教訓として、インフラ設計の議論に繰り返し引用されている。
## 第3位:設計寿命25年——100個の中継器が海底で老いていくとき
海底ケーブルの設計寿命は約25年。四半世紀の間、水圧・塩分・海流・生物付着に耐え続ける設計だが、時間の前には限界がある。銅導体の腐食、ポリエチレン外被の微小亀裂、中継器の電子部品故障——劣化要因は複合的で、どれか一つが顕在化するのではなく、じわじわと全体が衰えていく。
太平洋横断ケーブルには100個以上の中継器が連なっている。1個でも不具合を起こせば、海底から引き揚げての修理が必要だ。修理船の手配から作業完了まで数週間かかることも珍しくない。派手な事故ではないが、経年劣化という「時間の敵」は確実に積み重なる。全体の約10%を占める、地味ながら侮れない原因だ。
## 第2位:錨の誤投下——台湾・馬祖列島の1万人を孤立させた「不注意」
大型船が錨を誤投下し、海底のケーブルを引きずって切断する。全体の約20%を占める、実は深刻な事故類型だ。
2023年、台湾の馬祖列島沖で貨物船のアンカーが2本のケーブルを同時に切断した。約1万人が住む離島の住民は数週間にわたってインターネット接続を大幅に制限され、衛星通信やマイクロ波回線で急場をしのぐことになった。ケーブルが密集する台湾海峡では、こうした事故が繰り返されている。
ケーブルルートは「投錨禁止区域」として海図に明示されており、切断行為に懲役刑を科す国もある。それでも過失による事故は後を絶たない。GPSの誤差、乗組員の海図確認の省略、悪天候下での判断——技術と規制だけでは埋めきれないギャップが残る。
## 第1位:底引き網——悪意なき漁業が引き起こす40%の断線
全海底ケーブル障害の約40%を引き起こしているのが漁船のトロール漁具だ。底引き網は海底面を面で引きずるため、ケーブルに絡んでそのまま引きちぎる。しかも1本引っかけると、前後数kmにわたる区間を傷つけることもある。
重要なのは、これが悪意ある行為ではないという点だ。多くの漁師は海図のケーブルルートを確認していないか、GPSの精度不足でケーブル保護区域に入り込んだ結果だ。水深200m以浅の大陸棚は漁場とケーブルルートが重複しやすく、東アジアと地中海沿岸で事故が特に集中している。
ケーブル事業者は漁業者向けの啓発プログラムを展開し、「ケーブルを避ければ漁具の損失も防げる」というWin-Winの論理で普及を図る。技術面では、浅海域のケーブル埋設深度を海底下1〜2mまで深くする工事も進んでいる。それでも件数が減らないのは、世界の海底ケーブル総延長が約130万kmに達しており、すべての区間を保護するのが物理的に困難だからだ。
## 世界に数十隻しかない修理船——断線から復旧まで数週間の現実
断線が起きた後、どうなるか。専用の修理船が現場に向かい、海底のケーブルを引き上げて繋ぎ直す。問題は、この修理船が世界に数十隻しか存在しないことだ。事故発生から船が到着するまで数日から数週間、修理完了まではさらに時間を要する。
その間、トラフィックは生きている他のケーブルに迂回して流れる。日本のように冗長性が高い地域では実害を感じにくいが、複数の事故が重なれば遅延や輻輳が現実になる。2020年代以降、地政学的な緊張を背景に各国政府はケーブルの防衛的な重要性を再評価し始めた。しかし全長130万kmのインフラを軍事的に守る手段は現実的でなく、民間保険と保守契約に依存した現行体制は当面続く。
最大の敵が今も「底引き網」であり続ける事実は、テクノロジーの問題というより、海と生業が交差する場所の問題として語り直す必要がある。
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出典
- ISCPC: 海底ケーブル障害原因の統計データ