海底ケーブルの仕組み — データが光速で海底を走る
基礎から押さえる
あなたが海外のウェブサイトを開くとき、データは光の速度で海底ケーブルの中を旅しています。太平洋を横断するのにかかる時間はわずか 0.06 秒。この驚異的な速度を実現する仕組みを、5つのステップで解説します。
Step 1: データを光信号に変換する
すべてのデジタルデータ(テキスト、画像、動画)は「0」と「1」のビット列に変換されます。このビット列を レーザー光のオン・オフに変換するのが、陸上の通信局に設置されたトランスポンダーです。
現代のケーブルでは波長多重(WDM)技術により、1 本の光ファイバーに 100 以上の異なる波長(色)の光信号を同時に通します。目に見える光が赤から紫まであるように、通信用レーザーも波長を微妙にずらすことで、1本のファイバーに多数のチャネルを詰め込めるのです。1チャネルあたりの速度は現在 400Gbps〜800Gbps に達しています。
Step 2: ケーブルの中を光が走る
光ファイバーは直径わずか 9マイクロメートル(髪の毛の約8分の1)のガラスの芯です。光はこの極細のガラスの中を 全反射しながら進みます。速度は真空中の光速の約2/3、秒速約 20万km。東京からロサンゼルスまで約9,000kmの距離を、光は 45ミリ秒(0.045秒)で駆け抜けます。
光ファイバーは通常、ファイバーペア(送信用と受信用の2本1組)として使用されます。最新の太平洋横断ケーブルは12〜24ファイバーペアを搭載しています。
Step 3: 中継器で信号を増幅する
光信号は長距離を伝搬するうちに弱くなります(光ファイバーの減衰は1kmあたり約 0.2dB)。これを補うのが、約 60〜80km 間隔で海底に設置された中継器です。
中継器の心臓部は光増幅器(EDFA: エルビウム添加ファイバー増幅器)です。エルビウムという希土類元素を添加した特殊なファイバーにポンプレーザーの光を照射すると、弱まった信号光がエネルギーを受け取って増幅されます。信号を電気に変換せず、光のまま増幅するのがポイント。これにより超高速・大容量の伝送が可能になっています。
太平洋横断ケーブルには 100 基以上の中継器が並びます。中継器は海底から給電され、25 年間メンテナンスフリーで動作し続ける設計です。
Step 4: 陸揚げ局で地上に接続する
海底ケーブルは陸揚げ局(Cable Landing Station)で地上ネットワークに接続されます。日本には千倉(千葉県)、志摩(三重県)、北九州など 20 以上の陸揚げ地点があります。
陸揚げ局では光信号が復調され、国内の通信事業者やデータセンターのネットワークに引き渡されます。ここには PFE(Power Feed Equipment)も設置されており、海底の中継器に電力を供給しています。給電電圧は最大 15,000V、直流です。
Step 5: 世界中のネットワークがつながる
陸揚げ局から先は、地上の光ファイバー網を通じて各都市のインターネットエクスチェンジ(IX)やデータセンターに接続されます。東京の JPIX や JPNAP、大阪の BBIX など、日本の IX は世界中のネットワークが集まるハブとして機能しています。
通信容量の進化
海底ケーブルの容量は指数関数的に増加してきました。2001 年の TPC-5 は 640Gbps。2016 年の FASTER は 60Tbps。2025 年に運用を開始したJUNOは 360Tbps。これは 4K 動画を約 900 万本同時にストリーミングできる帯域です。
しかもケーブルの物理的寿命は 25 年。その間に伝送技術が進歩するため、ソフトウェアのアップグレードで初期容量の 数倍まで増速されます。
衛星通信との根本的な違い
Starlink などの衛星通信は「容量」と「遅延」の面で海底ケーブルに遠く及びません。Starlink の衛星コンステレーション全体の帯域は数十 Tbps 程度で、海底ケーブル1本分にも満たないのが現状です。ただし、ケーブルが届かない離島や洋上では衛星通信が唯一の手段。両者は競合ではなく補完の関係にあります。
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よくある質問
- 海底ケーブルはどうやってデータを送っているの?
- 光ファイバーの中をレーザー光の点滅で0と1のデジタル信号を送っています。1本の光ファイバーに波長の異なる光を100以上重ねて同時に伝送するWDM技術により、1本のケーブルで数百Tbpsの大容量通信が可能です。
- 海底ケーブルの中継器はどうやって動いている?
- 陸揚げ局から海底ケーブルに沿って直流の電力を供給しています。約60〜80km間隔で設置された光増幅器(EDFA)はこの給電で動作し、25年間メンテナンスフリーで稼働します。
- 海底ケーブルと衛星通信、どっちが速い?
- 海底ケーブルの方が高速・大容量です。光ファイバーの遅延は太平洋横断で約0.06秒。Starlinkなどの衛星は遅延が数十ms多く、総帯域も海底ケーブル1本分に及びません。ただし、ケーブルが届かない地域では衛星通信が唯一の手段です。
出典
- ISCPC: 海底ケーブルの技術的仕組み