海底ケーブルの敷き方とNEC世界35%の実力

海底ケーブルの敷き方とNEC世界35%の実力
世界の国際通信トラフィックの99%が、太平洋や大西洋の海底を走る光ファイバーで運ばれている。この巨大インフラを支える海底ケーブル市場で、世界シェアの約35%を握っているのが日本のNECだ。 パソコン周辺機器のメーカーというイメージとはかけ離れているが、NECは1960年代後半からこの事業に参入し、半世紀以上にわたって地球を30周以上する長さ——30万キロメートルを超えるケーブルシステムを世界中に届けてきた知られざる巨人だ。 ## 直径十数メートルのタンクに収められた「光の幹線」 海底ケーブルを敷くのは、ケーブル船と呼ばれる特殊な船だ。外観は一般の貨物船に近いが、船内の構造がまったく異なる。最大の特徴は、直径十数メートルにもなる円形の「ケーブルタンク」が複数設けられている点で、そこにケーブルが何千キロ分も渦巻き状に収められている。東京からハワイまでの約6,200kmに相当するケーブルが、たった一隻の船に積み込まれるイメージだ。 ケーブルを降ろす速度は時速数キロメートル。人が歩く速さとほぼ同じで、極めてゆっくりとした作業だ。海岸に近い水深1,500メートル未満の浅い海域では、海底に溝を掘ってケーブルを埋設する。漁船の錨やトロール網に引っかかるリスクを減らすためだ。水深1,500メートルを超えると、ケーブルはそのまま海底に静かに置かれる。 ケーブルが海岸に上陸する地点を「陸揚げ局(ランディングステーション)」と呼ぶ。日本では千葉・茨城・神奈川などに複数の陸揚げ局があり、ここから陸上の通信網へと接続される結節点だ。外部から見れば何の変哲もないビルだが、国際通信の出入り口として機能している。 敷設ルートの選定も単純ではない。海底山脈を避け、海底地震の多い地帯を可能な限り迂回し、あらかじめ海底地形を調査した上でルートが決まる。計画から敷設完了まで、大規模プロジェクトでは3〜5年かかることも珍しくない。 ## 水圧800気圧、25年以上の耐久を求められる設計 深海8,000メートルの水圧は、約800気圧に達する。富士山を2つ重ねた深さに相当し、その環境でケーブルが25年以上にわたって正常に動き続けることを求められる。これは地上のどんな工業製品とも異なる、苛烈な条件だ。 ケーブルの断面構造は、中心から外側に向かって光ファイバー束、銅線(中継器への電力供給用)、高張力鋼線(強度補強)、絶縁層、外装という順に積み重なっている。深海では薄型の鎧装に、浅海では厚い鎧装で物理的損傷に備える。同じ「海底ケーブル」でも、設置場所によって断面の構造が変わる。 長距離伝送には光信号を増幅する「中継器」が欠かせない。太平洋横断ケーブルでは、数十キロメートルおきに何十個もの中継器が海底に沈む。この中継器の性能と信頼性が、ケーブルシステム全体の通信品質を決定づける。 ## 世界3社の寡占市場でNECが勝ち続ける理由 世界の海底ケーブル市場は、米SubCom、仏Alcatel Submarine Networks(ASN)、日本のNECという3社による寡占状態にある。巨大な設備投資と長年の実績が参入障壁となり、新規勢力が食い込む余地はほぼない。 この3社の中でNECが際立つのは、光増幅中継器を自社で研究・開発・製造している点だ。NECは神奈川県相模原市の工場で中継器を製造しており、独自技術による性能と信頼性が長年の競争優位を支えている。競合他社が外部調達する部品をNECが内製することで、品質管理を根本から掌握できる。 ビジネスモデルは「フルターンキー」方式を採用している。ルート設計から、ケーブルと中継器の製造、ケーブル船による敷設、運用後の保守まで、一社ですべてを請け負う垂直統合型だ。顧客である通信事業者や大手IT企業にとっては品質管理の責任が明確になるため、数百億円規模の投資を伴うプロジェクトほどこのモデルが評価される。 ## 切れたケーブルはどう直すのか——ROVが深海へ潜る 海底ケーブルが切断されるのは、思った以上に珍しくない。原因の大半は漁船の底引き網や船の錨による物理的損傷で、地震や海底土砂崩れによる断線も起きる。2006年には台湾南西沖地震で複数のケーブルが同時に切断され、東南アジア各国のインターネットが数日間にわたって大幅に遅延した。 修理もケーブル船が担う。修理船は「動的位置保持システム(DP)」を使い、潮流や風に流されることなく海上の一点に停止し続ける。そこから遠隔操作無人探査機(ROV)を深海に降ろし、海底のケーブルを掴んで船上まで引き揚げる。切断された両端をそれぞれ回収し、船上で修復してから再び海底に沈める。 この作業に要する期間は、損傷箇所の深度や天候によって大きく変わる。深海での修理では数日から数週間かかることもあり、その間は当該ルートの通信が縮退した状態で続く。KDDIが運用する「KDDIケーブルインフィニティ」は敷設・修理の両方をこなす兼用船で、日本近海のケーブル保守にも当たっている。 ## JUNOとTaihei——プラットフォーム企業が動かす次の波 NECは近年、大規模プロジェクトを次々と受注している。日本と北米を結ぶ「JUNO」、太平洋を縦断する「Taihei」などがその代表例だ。注目すべきは、グーグル・メタ・アマゾンといった巨大IT企業が自社専用のケーブル敷設に直接投資する動きが加速している点で、これらの企業を主要顧客として取り込んでいるかどうかが今後の市場シェアを大きく左右する。 海底ケーブルはもはや通信事業者だけのインフラではない。クラウドサービスが世界規模で展開され、動画や音楽のストリーミングが日常化した現在、データセンター同士をつなぐ海底ケーブルは、プラットフォーム企業の事業基盤そのものになっている。 1960年代後半からこの市場に根を張り、30万キロメートルを超えるネットワークを積み上げてきたNECの実績は、デジタル経済の最も深い部分を支え続けている。私たちの画面に動画が流れるそのとき、何千メートルも下の暗闇を光の信号が走っている。

この記事は信頼性の高い業界情報源に基づき作成し、編集部が内容を確認・監修しています。お気づきの点はお問い合わせよりお知らせください。

よくある質問

海底ケーブルの修理はどのように行うのですか?
まず故障箇所を特定後、ケーブル船が「動的位置保持システム(DP)」で海上の定位置に留まります。次に遠隔操作の探査機でケーブルを船上へ引き揚げ、損傷部分を修理・接続したのち、再び海底に設置します。
海底ケーブルの寿命はどのくらいですか?
海底ケーブルシステムの設計上の寿命は、一般的に25年とされています。この期間、水深8,000mの水圧や低温といった過酷な環境に耐え、安定した通信を提供し続ける高い信頼性が求められます。
NEC以外に、日本の海底ケーブル関連企業はありますか?
はい。NECはケーブルシステムの製造から敷設まで手掛ける世界的なメーカーですが、他にもNTTやKDDIといった通信キャリアが、自社の国際通信網のためにケーブルの敷設プロジェクトに出資し、その運用・保守を担っています。

出典

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