海底ケーブル地図の読み方と世界500本の急所
基礎から押さえる
インターネットの国際通信の99%は、衛星ではなく海の底を走る光ファイバーケーブルが担っています。世界に500本超存在するこの海底ケーブルを一枚の地図で可視化する無料ツールがあり、使い方を知ると世界のデータ流通の急所と成長点が見えてきます。
## TeleGeography地図:1クリックでJUNOの360Tbpsが分かる
業界の標準ツールが、米国の調査会社TeleGeographyが公開しているインタラクティブマップです。運用中・建設中すべての海底ケーブルを網羅しており、無料で閲覧できます。
地図上のケーブルをクリックすると、RFS(Ready for Service、運用開始年)、設計容量、ケーブル全長、陸揚げ地点のリスト、そして出資者の一覧が表示されます。たとえばJUNOをクリックすると、日米間のルート、360Tbpsという設計容量、2024年のRFSが確認できます。360Tbpsとは毎秒360テラビット——HD映画に換算すると約1,440万本分のデータを同時に送れる容量です。
毎年の印刷版ポスターマップも通信業界で人気があり、世界の通信会社のオフィスの壁に貼られているのをよく目にします。デジタル版は随時アップデートされており、新ケーブルの情報が数週間以内に反映されます。
## 台湾海峡に10本超が束になる地政学リスク
地図を開いてまず目を引くのが、特定の海峡にケーブルが密集している様子です。紅海・スエズ運河周辺、マラッカ海峡、ルソン海峡、台湾海峡——地理的に回避できない水路には、狭い範囲に10本以上のケーブルが通っています。
なぜ集中するのか。ケーブルは最短ルートで敷設するのが原則で、コストと通信遅延の両方を最小化するためです。海峡を迂回すれば数千キロものルートが延び、遅延(レイテンシ)が増加します。その結果、地政学的な緊張地帯とインフラの急所が重なる現実が生まれています。
2024年初頭には紅海でフーシ派による攻撃を受け、欧州・アジア間を結ぶ複数のケーブルが切断されました。迂回路に回されたトラフィックは遅延が増加し、影響は数週間続きました。地図上のチョークポイントは単なる地理情報ではなく、インフラの脆弱性マップそのものです。
## シンガポール、マルセイユ、千倉——この都市にケーブルが集まる理由
地図を俯瞰すると、ケーブルが蜘蛛の巣のように集まる都市が浮かび上がります。シンガポールはアジア・欧州・オセアニアをつなぐゲートウェイとして20本以上のケーブルが陸揚げされており、東南アジアのインターネット交換の中心点になっています。マルセイユは地中海と大西洋の結節点として、アフリカ・中東・欧州のケーブルが集結します。マイアミは南北アメリカの接続拠点です。
日本では千葉県南房総市の千倉(ちくら)が最大規模の陸揚げ地です。北太平洋を横断するケーブルの多くがここを終端としており、日本のインターネット基盤の「玄関口」にあたります。三重県志摩市の陸揚げ局と組み合わせることで、東日本と西日本でルートを分散できる構造になっています。
## 日本に接続する30本超と4カ所の陸揚げ拠点
日本に接続するケーブルは現在30本を超えており、北米向け・東南アジア向け・オーストラリア向けと、太平洋を囲むほぼすべての地域と直結しています。主な陸揚げ地点は4カ所です——千葉県南房総市の千倉(最大規模)、三重県志摩市、茨城県北茨城市の磯原、そして福岡県宗像市・北九州市。磯原と宗像は国土の端に位置し、日本海・黄海方面のケーブルに地理的に適した場所です。
北米向けの主要ケーブルはJUNO(360Tbps、2024年)、Topaz(Google投資)、Unity、PC-1などです。東南アジア向けはSJC2(Southeast Asia-Japan Cable 2)やAPG(Asia Pacific Gateway)、オーストラリア向けはJGA(Japan-Guam-Australia)などが運用中。これだけ多くの接続を持つことで、日本は太平洋ケーブルの乗り継ぎハブとしても機能しています。
## GoogleとMetaが海底ケーブルを自前で引く理由
地図上に「Google」「Meta」「Microsoft」「Amazon」という企業名が目立つようになったのは2010年代後半からです。従来、海底ケーブルは通信キャリアのコンソーシアムが共同所有する形態が一般的でした。テック企業が自社専用ケーブルに乗り出した理由はシンプルです——既存ケーブルでは容量の融通が効かず、AIとクラウドが生み出す爆発的なトラフィック増加に対応できないためです。
GoogleのEquianoはポルトガルから西アフリカ沿岸を経由し南アフリカに至るケーブルで、低遅延のデータセンター接続を念頭に設計されています。同社のTopazは日本とカナダを結ぶ新ルートです。自社ケーブルを持つことで、容量を丸ごと自社トラフィックの最適化に充て、セキュリティ上の制御も高まります。
## 2024〜2026年に100本超が加わる海底インフラの変化
TeleGeographyの地図には「planned(計画中)」「under construction(建設中)」「in service(運用中)」「decommissioned(廃止)」の4ステータスが色分けされています。現在、2024〜2026年にかけて100本以上のプロジェクトが同時進行しています。
新設の多くがアフリカ大陸沿岸とインド洋に向けられており、長年続いたデジタルデバイドを埋める動きが加速しています。以前は1〜2本しかなかったアフリカ東西海岸の接続が、MetaのProject2AFriqaやGoogleのEquianoによって急速に拡充されています。
廃止ケーブルも増加しています。1990年代に敷設された初期ケーブルが耐用年数(通常25年)を迎えており、旧式の低容量ケーブルが順次退役しています。地図上の「decommissioned」の点を辿ることで、インターネット黎明期からの歴史的軌跡も読み取れます。
海底ケーブルは普段まったく目に見えません。しかし地図という窓を通して眺めると、毎日使っているインターネットの向こう側にある物理的な現実——地理、政治、企業投資の力学——が突然くっきりと浮かび上がります。
この記事は信頼性の高い業界情報源に基づき作成し、編集部が内容を確認・監修しています。お気づきの点はお問い合わせよりお知らせください。
出典
- TeleGeography: TeleGeography Submarine Cable Map