海底ケーブルとは?通信の99%を支える130万km

海底ケーブルとは?通信の99%を支える130万km
日本とアメリカを結ぶ海底ケーブル「JUPITER」は、毎秒60テラビット——DVD約1万3000枚分のデータをわずか1秒で運びます。私たちが海外の動画を見たり、時差のある相手とビデオ会議をしたりできるのは、海の底に張りめぐらされた光ファイバーのおかげです。その総延長は約130万km、地球を30周できる長さ。国際通信の99%がこのケーブルを通り、衛星はごく一部を補うにすぎません。そしていま、この海の世界地図をAmazonやMetaが塗り替えつつあります。 ## 海底ケーブルが切れると国際通信はどうなるか 漁船の底引き網、船の錨、海底地震——海底ケーブルは年間100〜200回ほど世界のどこかで損傷していると言われます。では1本切れたら通信が止まるのか。答えはノーです。日本には太平洋側とアジア側に複数のケーブルが分散して接続されており、1本が傷ついても通信は瞬時に別ルートへ迂回します。この冗長性が、私たちの通信の安定を陰で支えているのです。 ただし複数のケーブルが同時に被害を受けると話は別。2006年12月、台湾南部沖で起きた地震では複数の海底ケーブルが一度に切断され、アジア一帯のインターネットと国際電話が数週間にわたって混乱しました。修理には専用のケーブル船が現場へ急行し、海底からケーブルを引き上げて接続し直すため、数日から数週間を要します。海の通信は、見えないところで常に綱渡りを続けているのです。 ## 千倉・志摩・北九州——光が日本に上陸する場所 ケーブルが陸に上がる地点を「陸揚げ局(りくあげきょく)」と呼びます。日本では太平洋側の千葉県南房総市の千倉・丸山地区、三重県志摩市、そしてアジアへの玄関口となる福岡県北九州市に集中しています。 なぜこの3地域なのか。千倉や志摩は太平洋を横断するアメリカ西海岸ルートの最短地点に近く、北九州は韓国・中国・台湾・香港・シンガポールといったアジアの経済拠点へ最短で届きます。都市部から適度に離れ、災害リスクを分散できることも選ばれた理由です。 日本から伸びる光の道は大きく3方向。太平洋を渡ってロサンゼルスやオレゴン州へ向かう北米ルート、アジア各国を結ぶ域内ルート、日本海を越えてロシアのナホトカへ至るルートです。米調査会社TeleGeographyが公開する「Submarine Cable Map」を開けば、青や緑の線が神経網のように日本列島へ集まる様子が一目でわかります。 ## 直径0.125mmのガラス繊維が運ぶ毎秒60テラビット 海底ケーブルというと、水道管のような太い管を思い浮かべるかもしれません。外側は確かに直径5cmほどの頑丈なポリエチレンで覆われています。けれど、その中心で実際に光を運ぶのは、髪の毛ほどしかない直径0.125mmのガラス繊維。光ファイバーです。 この極細の糸が、とてつもない量の情報を運びます。2020年に運用を始めた日米間ケーブル「JUPITER」は、わずか5対の光ファイバーペアで設計容量毎秒60テラビット。1秒間にDVDを約1万3000枚送り出す計算になります。高画質の動画配信も、大容量のクラウドサービスも、この一筋の光が根っこで支えているのです。 ## ケーブル敷設船が水深8000mに道をつくる 敷設を担うのは「ケーブル敷設船」と呼ばれる専用船です。船尾からケーブルを少しずつ繰り出し、海底の地形に合わせてゆっくり沈めていく——気の遠くなるような地道な作業の連続。 水深の浅い大陸棚では、漁船の網や錨による損傷を防ぐため、鉄線で鎧のように補強した「鎧装(がいそう)ケーブル」を海底に埋め込みます。逆に水深8000mを超える深海では、外から傷つけるものがほとんどないため、細く軽いケーブルで十分です。場所ごとに最適な構造を使い分ける、緻密なエンジニアリングの結晶なのです。 ## なぜAmazonやMetaは自分でケーブルを敷くのか かつて海底ケーブルは、NTTやKDDI、AT&Tといった各国の通信事業者が共同出資する「コンソーシアム」で建設するのが当たり前でした。その構図が一変したのが2010年代半ば。Google、Meta、Amazon、Microsoft——「ハイパースケーラー」と呼ばれる巨大IT企業が、自らケーブル建設に乗り出したのです。 JUPITERはその象徴です。日本のNTTやソフトバンクに加え、Amazon Web Services(AWS)とMetaが出資者に名を連ねています。通信のプロに任せず、なぜ自ら巨額を投じるのか。 理由は彼らのビジネスそのものにあります。クラウド、SNS、動画配信は、世界中のユーザーとデータセンターの間で絶え間なく膨大なデータを流し続けます。通信の速さと安定がそのままサービスの質に直結する以上、回線を他社任せにはできません。必要な容量を、必要なタイミングで、自分の手で確保する。それが彼らの戦略です。 ## 次に世界地図の線を引き直すのは誰か 海底ケーブルの主導権がIT企業へ移ったことは、データの流れる経路そのものを彼らが握り始めたことを意味します。今後はAIの学習を担う巨大データセンター同士を結ぶ専用ルートや、地政学リスクを避けて従来と違う海域を通すケーブルが増えると見られています。 何気なくタップする「再生」ボタンの裏側には、水深数千mの暗闇を貫く一筋の光と、それをめぐる国家とIT企業の静かな攻防があります。海の底から、通信の次の十年が動き始めているのです。

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よくある質問

海底ケーブルの寿命はどのくらいですか?
海底ケーブルの設計上の寿命は一般的に約25年とされています。しかし、技術革新のスピードが速いため、物理的な寿命を迎える前に、伝送容量の陳腐化によって新しいケーブルに置き換えられることも少なくありません。
海底ケーブルが切れることはありますか?切れたらどうなるのですか?
はい、漁業活動や船の錨、海底地震などによって切断される事故は年間100件以上発生しています。しかし、通信ルートは複数のケーブルで冗長化されているため、1本が切れても他のルートに迂回し、通信が完全に途絶することは稀です。
なぜ巨大IT企業は自社で海底ケーブルを敷設するのですか?
自社のクラウドサービスやSNSで発生する膨大なデータ通信を、低コストかつ低遅延で安定的に処理するためです。自らインフラを所有・制御することで、サービス品質を高め、競争優位性を確保する狙いがあります。

出典

海底ケーブル通信インフラJUPITERTeleGeography