海底ケーブルの真実。太さ17mmに秘められた超大容量通信の仕組み

海底ケーブルの真実。太さ17mmに秘められた超大容量通信の仕組み
国際通信の実に99%以上が、私たちの目に触れることのない海底ケーブルによって支えられています。その総延長は地球を30周するほどの約120万km。この巨大なネットワークが、実は深海部では直径わずか17mmほどしかないという事実は、あまり知られていません。この記事では、庭のホースほどの細さに秘められた驚異的な性能から、深海4000mでの修理方法、そして話題の衛星通信との本当の関係まで、通信インフラの生命線を支える海底ケーブルの知られざる実態に迫ります。 ## なぜ海底ケーブルは庭のホースほどの太さなのか? 多くの人が海底ケーブルと聞いて、頑丈で巨大なパイプのようなものを想像するかもしれません。しかし、水深1000mを超えるような深海に敷設されるケーブルの直径は、約17mmしかありません。これは、一般的な庭の散水ホースとほぼ同じ太さです。なぜ、これほど細いのでしょうか。 その答えは、ケーブルの断面構造と、深海という特殊な環境にあります。ケーブルの中心には、髪の毛ほどの細さの光ファイバーが数十本から数百本束ねられています。このファイバーを保護するのが、まず高張力鋼線、そしてその周りを覆う銅管です。銅管はケーブルに電力を供給する役割も担います。最も外側は、絶縁体であるポリエチレンで覆われています。これが基本的な構造です。 深海は水圧こそすさまじいものの、一度敷設されてしまえば非常に安定した環境です。船の錨(いかり)が届くことも、漁業で網が引っかかることもありません。そのため、過剰な保護は不要であり、強度とコストのバランスを考えた結果、この細さに設計されているのです。まさに合理性の結晶と言えるでしょう。 ## 沿岸部で直径50mm以上に“武装”する理由 一方で、水深200m未満の浅い海域、いわゆる大陸棚に敷設されるケーブルは様相が異なります。ここでは、直径が50mmを超える、幾重にも鋼線で鎧のように覆われた「アーマーケーブル」が使用されます。深海部と比べて3倍近くも太くなるのには、明確な理由が存在します。 浅海部は、海底ケーブルにとって最も危険なエリアです。故障原因の多くがこの海域で発生し、その大半は人為的なものです。代表的なのが、大型船が投下する錨や、海底をさらう底引き網漁による物理的な損傷。こうした脅威から光ファイバーを守るため、ケーブルは鋼鉄の鎧で徹底的に“武装”する必要があるのです。 興味深いことに、サメによる攻撃もリスクの一つとして認識されています。サメがなぜケーブルを噛むのか、その理由は完全には解明されていませんが、ケーブルから発生する微弱な電磁場に、獲物の出す生体電流と勘違いして引き寄せられるという説が有力です。こうした予期せぬリスクにも備え、浅海部のケーブルは頑丈に作られています。 ## ケーブル1本で毎秒200テラビット超 ― 衛星通信を圧倒する容量 海底ケーブルの真価は、その驚異的な伝送容量にあります。最新のシステムでは、光ファイバー1心(1ペア)あたり毎秒200テラビット(Tbps)を超えるデータを伝送可能です。これは、HD画質の映画(約2時間)を約4万本、わずか1秒で転送できる計算になります。1本のケーブルにはこうしたファイバーが複数搭載されているため、全体の容量はさらに巨大なものとなります。 近年、イーロン・マスク氏率いるSpaceXの「Starlink」など、低軌道(LEO)衛星通信サービスが注目を集めています。しかし、通信の基幹を担う「容量」という点では、海底ケーブルが衛星を圧倒しています。現在計画されているStarlink衛星をすべて打ち上げても、その全システムの合計容量は、最新の海底ケーブル1本分にも満たないと試算されています。光という物理媒体を使ってほぼロスなく情報を伝達できるケーブルと、電波を使い大気圏を通過する必要がある衛星とでは、根本的な情報伝達能力に桁違いの差があるのです。 遅延(レイテンシ)においても、海底ケーブルに軍配が上がります。光ファイバーの中を光速の約7割で進む信号は、地球の裏側まででも約0.1秒で到達します。これは、オンラインゲームや金融取引といった、コンマ1秒の遅れが致命的となる用途において決定的な差となります。 ## Starlinkは海底ケーブルの代替にはならない?それぞれの役割分担 では、衛星通信は海底ケーブルに取って代わられるのでしょうか。結論から言えば、その可能性は極めて低いと言えます。両者は競合するのではなく、互いの弱点を補い合う「補完関係」にあります。 海底ケーブルが国や大陸間を結ぶ「大動脈」や「高速道路」だとすれば、衛星通信はそこから各家庭や末端のデバイスまでをつなぐ「一般道」や「ラストワンマイル」としての役割を担います。特に、ケーブルの敷設が物理的・経済的に困難な山間部、離島、広大な砂漠地帯などでは、衛星通信が唯一の高速インターネット手段となり得ます。 また、地震や津波で陸上の通信インフラが寸断された際のバックアップ回線としても、衛星通信の価値は計り知れません。空が見えればどこでも通信できるという強みは、防災の観点からも非常に重要です。このように、海底ケーブルが「主役」として世界の通信網を支え、衛星通信がその網が届かないエリアをカバーし、全体の冗長性を高める。これが、これからの通信インフラの姿です。 ## 深海4000mでの断線、どうやって修理するのか? もし、このデジタル社会の生命線である海底ケーブルが切断されたら、どうなるのでしょうか。実際、故障は年に100件以上発生しており、そのたびに専門のチームによる大規模な修理作業が行われています。 まず、陸上の監視センターで異常を検知すると、「OTDR(光時間領域反射率計)」という特殊な測定器が使われます。これは、光ファイバーの一端から光パルスを送り込み、断線箇所からの反射光が戻ってくるまでの時間を計測することで、数kmの精度で故障地点を特定する技術です。場所が特定されると、直ちに専用のケーブル修理船が港から出動します。 現場の海域に到着した修理船は、「グラップネル」と呼ばれる巨大な鉤爪(かぎづめ)を海底に下ろし、手探りでケーブルを引っ掛けます。水深が4000mにも達する深海での作業は困難を極めますが、熟練の技術でケーブルを船上まで引き揚げるのです。近年では、遠隔操作無人探査機(ROV)を用いて海底のケーブルを掴み、切断する作業も行われます。 船上では、引き揚げたケーブルの損傷部分を切断し、新しいケーブルを接続します。髪の毛よりも細い光ファイバーを、コア(芯)が正確に一致するように1本1本「融着接続」していく作業は、まさに神業。すべての接続が終わると、補修部分を慎重に海底へ戻し、作業は完了です。この一連の工程には数週間から1ヶ月以上を要し、費用は数億円から、場合によっては数十億円に達することもあります。 ## デジタル社会の生命線をどう守り、発展させるか 私たちの生活や経済活動は、もはやこの目に見えない海底ケーブルなしには成り立ちません。日々のビデオ会議も、海外の友人とのSNSでのやり取りも、クラウド上のデータへのアクセスも、すべてはこの細いガラスの糸が支えています。 近年、データの消費量は爆発的に増加しており、それを支えるためにケーブルの大容量化は今も続いています。より多くの光ファイバーを収容できる「多心ファイバーケーブル」技術などが実用化され、通信容量はさらに拡大していくでしょう。同時に、地政学的な緊張の高まりは、海底ケーブルを意図的な破壊活動から守るという新たな課題も浮き彫りにしています。国家間のデータ流通の要衝であるこのインフラは、経済安全保障の観点からも極めて重要な存在です。私たちは、この静かなる海の底の生命線をどう守り、未来へつないでいくのか。その重要性を、今一度認識する必要があるのかもしれません。

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海底ケーブル通信インフラ光ファイバー衛星通信Starlink