北極海ケーブル、遅延30%減で2027年稼働へ
2024年に紅海で相次いだケーブル損傷事件が、業界に「第三のルート」の必要性を突きつけた。アジアと欧州を結ぶ海底ケーブルは現在、インド洋ルートと太平洋ルートの2本しか存在しない。その構造的な脆弱さに対する答えとして、北極海経由のルートが現実味を帯びてきた。
## 現行2ルートが抱える地政学リスク
インド洋ルートはアジアからマラッカ海峡を抜け、紅海・スエズ運河・地中海を経て欧州に至る。片道遅延は約130msで最短クラスだが、2024年には紅海でフーシ派の攻撃による損傷が相次ぎ、その脆弱性が露わになった。太平洋ルートはアジアから北米を経由するため片道約180msと遅延が大きく、距離の長さが宿命的なハンデとなっている。
紅海でのリスクが顕在化したことで、業界は2本に依存する構造からの脱却を本格的に模索し始めた。
## 気候変動が切り開いた16,500kmのルート
北極海の海氷面積は温暖化の進行とともに縮小を続け、かつては物理的に不可能だったケーブル敷設が選択肢に浮上した。フィンランドの通信インフラ企業CiniaとカナダのFar North Digitalが主導する**Far North Fiber**プロジェクトは、この変化を最も具体的に捉えた取り組みだ。
ルートは日本からアラスカ、カナダ北極圏、グリーンランド、アイスランド、アイルランドを経て欧州へ。総延長は約**16,500km**。紅海もマラッカ海峡も太平洋横断も経由しない、初めてのアジア-欧州直結ルートとなる。運用開始の目標は**2027〜2028年**だ。
## 東京-ロンドン間の遅延が120msへ
北極点付近を通る大圏ルートは、既存の2ルートより物理的に短い。Far North Fiberが稼働すれば、東京-ロンドン間の片道遅延は現行インド洋ルートの130msから推定**120ms**に短縮される。太平洋ルートの180msと比べると、削減幅は**30%超**になる。
数十ミリ秒の差は一般ユーザーには無縁に聞こえるが、高頻度取引(HFT)の世界では1msの差が年間数億ドルの損益差につながる。金融機関からの関心は格別に高い。
## 氷山が削る海底、修理船が入れない海域
北極海特有の敷設リスクも侮れない。最大の脅威は「アイスゴージング」と呼ばれる現象だ。氷山や流氷が海底を削るこの現象は水深**200m**程度まで発生し、ケーブルに物理的な損傷を与える。浅海部では深埋設工法で対応する計画だが、コストは大幅に増す。
損傷時の修理も難題だ。北極海への修理船アクセスは夏季に限られるため、障害発生から復旧まで数か月単位の期間がかかりうる。信頼性の担保には、設計段階からの徹底した冗長化が求められる。
## 「保険」としての価値が通信網を変える
Far North Fiberが完成すれば、容量は複数のファイバーペアで数十Tbps以上に達する見込みだ。速度と地政学的分散という二つの価値を兼ね備えたルートとして、通信事業者の「保険」になりうる。
台湾海峡・紅海・マラッカ海峡——現行ルートを縛る政治的なホットスポットをすべて回避できる経路が2027年に試される。温暖化が皮肉にも生み出したこの機会を、インターネットインフラがどう活かすかは、今後の地政学情勢にも左右される。
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出典
- Far North Fiber: Far North Fiber プロジェクトの詳細