海底ケーブルで外交摩擦、米がチリ官僚3名のビザ取消
まず読む基礎解説
2026年2月、米国務省はチリ政府の運輸・通信大臣を含む官僚3名のビザを取り消した。理由は、チリと香港(中国)を結ぶ海底ケーブル計画を安全保障上の脅威と判断したためだ。インフラ案件を理由に相手国高官のビザを剥奪するという異例の措置は、海底ケーブルをめぐる米中の対立が新たな局面へ入ったことを示している。
## ビザ取消という異例の外交圧力
米国務省は声明で、このケーブル計画が「地域の安全保障を損なう」と明言した。チリ側は「まだ民間企業による初期提案の段階であり、政府として正式決定した案件ではない」と釈明したが、米国は強硬手段を選んだ。計画の主体が民間であっても、通過ルートや終端設備の所在が安保上の懸念材料となりうることを、今回の一件は明確に示している。
## 海底ケーブルが「地政学の戦場」になった理由
グローバルインターネット通信の約95%は海底ケーブルを経由する。光ファイバー1本の太さはほぼ人毛ほどだが、1ルート当たり数百テラビット毎秒の伝送が可能だ。こうした物理インフラの所有者・運用者は、データの流れを実質的に制御できる立場にある。米国は近年、HMN Technologies(旧Huawei Marine)が関与するケーブル計画への反対を各国に働きかけており、太平洋・大西洋を横断するルートでその影響力を拡大してきた。チリへの今回の圧力は、その延長線上にある施策だ。
## 5Tbpsのケーブル、EUが後押しするカナリア諸島
欧州では対照的に、地域インフラの増強が着実に進んでいる。スペインのカナリア諸島では、公営企業Canalinkがエル・イエロ島を含む西部の島々を結ぶ新たな海底光ファイバーケーブルを計画し、現在許認可を申請中だ。推定伝送容量は5Tbps。欧州連合の資金支援も受け、通信の冗長性と耐障害性の向上を目指す。
エル・イエロ島は人口約1万1000人の小島だが、島内の電力を再生可能エネルギー100%で賄う先進的な取り組みで知られる。そのデジタルインフラを本土と確実につなぐ海底ケーブルは、自然災害やケーブル断線時のフェールセーフとして機能する。
## 分断されていく世界の海底ネットワーク
2026年現在、世界には550本以上の海底ケーブルが敷設されており、総延長は130万km以上に及ぶ。これまでは国籍や政治体制を問わず、共通インフラとして機能することが多かった。しかし米中対立の激化にともない、「誰が製造・敷設・保守するか」が案件の可否を直接左右するようになった。
今後は単一の国際通信網ではなく、政治的同盟によって分断された複数の海底ネットワークが並立する未来が現実味を帯びている。物理的な光ファイバーの配線が、そのまま地政学的な影響圏を描く地図になる時代だ。
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出典
- SubTel Forum: [1] The US government is barring a Chilean cabinet minister and two other officials from being able to enter the country, part of a diplomatic rebuke over Chile’s trade ties with China including a proposed undersea cable that could link them.
- SubTel Forum: [2] Canalink, the public company of the Cabildo of Tenerife, is making progress in deploying a submarine cable network aimed at enhancing connectivity between the islands of the Archipelago.