海底ケーブルの脅威と成長|99%を支えるインフラの今
まず読む基礎解説
国際インターネットトラフィックの実に99%を伝送する海底ケーブルが、新たな建設ラッシュと地政学的リスクの高まりという二つの潮流に直面している。地中海では地域連携による新ルート構築が進む一方、台湾沖ではケーブル切断が発生。その脆弱性が改めて浮き彫りになった。現代社会の神経網ともいえる海底インフラは今、大きな転換点を迎えているのだ。
## バルカン半島に生まれる新たな「デジタル回廊」
旺盛なデータ需要を背景に、新たな海底ケーブル計画が各地で進んでいる。その一つが、バルカン半島と地中海地域における接続強化を目指す動きだ。ハンガリーの通信大手4iGグループとギリシャの送電事業者IPTO傘下のGrid Telecomは、アルバニアとギリシャを結ぶ大容量の光ファイバー網構築に関する覚書(MoU)を締結した。この計画には、陸上ルートだけでなく、アドリア海と地中海を結ぶ新たな海底ケーブルの共同開発も含まれている。
両社は専門知識を交換し、地中海から欧州の主要なデータ拠点へと繋がる、強靭な「デジタル回廊」の創設を狙う。これは、単なる二国間の接続強化にとどまらない。周辺地域全体のデジタル経済を底上げし、データ流通の新たなハブとなる可能性を秘めた、注目すべきプロジェクトである。
## 5300万ドル投資も…承認遅延に揺れる新興国プロジェクト
一方で、インフラプロジェクトは常に順風満帆とは限らない。バングラデシュでは、同国初となる民間主導の海底ケーブルプロジェクトが、行政手続きの遅れによって1年以上の遅延リスクに晒されている。すでに5300万ドル(約82億円)もの資金が投じられているにもかかわらず、外務省や内務省からの許可が得られていない。これにより、ケーブル敷設船が領海内での作業に入れずにいるのだ。
ベンガル湾でのケーブル敷設作業は、気象条件から11月から5月中旬までの短い期間に限られる。この「窓」を逃せば、計画は来シーズンまで延期を余儀なくされる。この事例は、海底ケーブルプロジェクトが技術や資金だけでなく、各国の行政や法制度といった「見えない障壁」にいかに影響されるかを物語っている。
## 台湾離島でケーブル切断、偶発事故と妨害行為の影
海底ケーブルの物理的な脆弱性も、深刻な課題だ。台湾海峡の戦略的要衝である東引島で、本土と結ぶ海底ケーブルが切断される事態が発生した。台湾当局の発表によれば、悪天候によって移動した沈没船の残骸がケーブルに接触したことが原因とみられている。
通信が途絶えた島では、直ちにマイクロ波通信によるバックアップシステムが起動され、住民の通信は確保された。しかし、この偶発的な事故の背後には、地政学的な緊張が影を落とす。台湾政府はこれまで、中国籍の船舶による意図的なケーブル破壊行為への懸念を繰り返し表明してきた。事故か、あるいは意図的な妨害か。海底ケーブルは、その判別が極めて難しいインフラでもあるのだ。
## 「意図的な破壊」米上院がロシアの脅威に警鐘
こうした懸念は、今や世界的な安全保障問題へと発展している。米上院外交委員会では、海底ケーブルに対する妨害行為(サボタージュ)への対策強化を求める声が上がった。共和党のジム・リッシュ上院議員は、国際社会が連携してインフラの強靭性を高め、攻撃が発生した際にはその事実と実行者を公表すべきだと訴えた。
同委員会は、2022年以降にバルト海で発生した少なくとも8件の妨害行為疑惑について、ロシアの関与を強く示唆している。特に警戒されているのが、ロシアが開発したとされる高度な水中戦能力と、錨が偶然引っかかったように見せかける巧妙な偽装工作だ。海底ケーブルが、国家間の対立における新たな「戦場」になりつつある現実を、この議論は突きつけている。
## 経済安保の最前線へ、問われる国際連携
海底ケーブルはもはや、単なる通信インフラではない。データという現代の石油を運ぶ大動脈であり、経済安全保障の根幹をなす存在へとその重要性を増している。建設ラッシュに沸く一方で、偶発的な事故や意図的な破壊といった脅威は、かつてなく高まっている。デジタル社会の生命線を守るため、ルートの多様化やバックアップ体制の強化といった技術的な対策はもちろんのこと、脅威を抑止するための国際的な監視・協力体制の構築が、今まさに問われていると言えるだろう。
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よくある質問
- 海底ケーブルが切断される主な原因は何ですか?
- 主な原因には、漁船の網や船の錨が引っかかる偶発的な事故と、国家などが関与する意図的な妨害行為(サボタージュ)の2種類があります。台湾の事例のように、悪天候で移動した沈没船の残骸が原因となることもあります。
- なぜ海底ケーブルの建設計画は遅れることがあるのですか?
- 技術的な問題だけでなく、行政手続きの遅れが大きな要因となります。バングラデシュの事例のように、関係省庁からの許可が得られなければ、多額の投資があってもプロジェクトを進めることはできません。また、敷設作業は天候に左右されるため、作業可能な期間を逃すと大幅な遅延に繋がります。
- 海底ケーブルが切断されると、インターネットは使えなくなるのですか?
- 一つのケーブルが切断されても、すぐに大規模な通信障害に繋がるわけではありません。多くの通信は複数の迂回ルートを経由しており、台湾の事例のように、マイクロ波通信などのバックアップシステムが起動することで、通信サービスは維持されます。ただし、地域や回線の状況によっては速度低下などの影響が出ることがあります。
出典
- 4iG Press Release: 4iG Group and Grid Telecom Sign MoU to Strengthen Digital Connectivity in BalkanMed Region
- The Business Standard: Private Subsea Cable Bid in Limbo Despite $53M Investment
- Reuters: Taiwan Activates Backup Communications for Outlying Island After Undersea Cable Breaks
- Reuters: Key US Senator Calls for New Efforts to Prevent Undersea Cable Sabotage