台湾離島で海底ケーブル2本切断、50日間の通信危機

台湾離島で海底ケーブル2本切断、50日間の通信危機

まず読む基礎解説

2023年2月、台湾北部の馬祖列島で海底ケーブル2本が6日間のうちに相次いで切断された。いずれも中国籍の船舶のアンカーが原因だ。住民約1万4000人のインターネット速度は通常の100分の1以下に落ち込み、動画もビデオ会議も不可能な状態が約50日間続いた。 ## 6日間で2本——馬祖列島を孤立させた連続切断 馬祖列島は台湾本島の北西約200kmに位置し、中国福建省まで目と鼻の先だ。台湾本島との通信は2本の海底ケーブルのみが支えていた。 2月2日、1本目のケーブルが中国籍貨物船のアンカーに引きちぎられた。わずか6日後の2月8日、今度は中国漁船が残る1本を切断した。「2本失い」となり、島のインターネット速度は通常比100分の1以下へ急落。マイクロ波無線でかろうじて通信は維持されたが帯域は極めて限られ、動画再生やリアルタイム通話は実質遮断された。 修理船が到着してケーブルを復旧させるまで、約50日を要した。 ## 年間100〜150件——海底ケーブル障害の7割が人為的原因 馬祖の事例は極端に見えるが、人間の活動による海底ケーブルの損傷は日常的に起きている。国際ケーブル保護委員会(ICPC)の統計によれば、年間100〜150件発生するケーブル障害のうち65〜70%が人間活動に起因する。 最多は底引き網・トロール漁で全体の約40%を占める。漁網がケーブルに絡みつき、船が引き上げる力でケーブルが引きちぎられる。水深200m以下の大陸棚が特に危険な区域だ。次いで多いのが船舶のアンカーで約25%。錨をケーブルの上に落とし、船が移動する際に引きずって切断するパターンが典型的だ。浚渫・海底工事が約5%を占め、残り約30%は地震・海底地すべりや経年劣化、サメの噛みつきなど自然要因が続く。 ## 「高価な漁具を守ろうとした」——なぜ漁船は切断するのか 故意の破壊行為は少ない。問題の核心は「無知による事故」だ。 海図にはケーブルルートが記載されているが、小型漁船の船長がそれを確認するケースは多くない。発展途上国では海図自体を持たない漁船も存在する。操業中にケーブルへ引っかかった場合、船長は高価な漁具を守ろうと無理に引っ張る。底引き網は1セット数百万円が相場であり、それを失う恐怖がケーブルを切断させる。 船舶自動識別装置(AIS)の不備も要因だ。大型船には義務付けられているが、小型漁船には搭載義務がない国も多い。ケーブル保護区域に無自覚のまま侵入し、警告が届かないまま損傷を与えてしまう。 ## 埋設・法律・教育——保護の3層が抱える限界 対策は物理・法律・啓発の3層で構成される。 物理的防御の中心は埋設だ。水深1,500m以下の浅海部では、プラウ(海底耕耘機)やジェット噴射で海底を掘り、ケーブルを1〜3m埋め込む。直接的な力からケーブルを守るためだが、岩盤が露出する区間では施工できず、コストも高い。 法的保護は1884年のパリ条約を起点とし、海底ケーブルの損傷を国際法で禁じている。日本では有線電気通信法が同様の規制を設ける。だが実際の訴追は少ない。AIS非搭載で船舶の特定が困難な場合や、国際管轄権が複雑に絡む場合が多いからだ。啓発面では、漁業組合への周知活動やGPSアプリの普及が進みつつある。ケーブルルートを地図上に表示し、保護区域に近づいた際に警告を出す仕組みだ。 ## 冗長性の欠如——馬祖が突きつけた構造問題 今回の事件が浮き彫りにした最大の課題は、切断への対処法ではなく冗長性の欠如だ。ケーブルが1〜2本しかない離島では、1本の切断だけで通信が大幅に劣化する。2本失えば事実上の孤立となる。 今後の焦点は、低軌道衛星通信との組み合わせによるバックアップ体制の整備だ。海底ケーブルは大容量・低コスト通信の主役であり続けるが、単独での運用は脆弱性を内包する。馬祖の50日間は、デジタルインフラの「次の一手」を問う問いを世界に突きつけた。

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出典

  • Reuters: 台湾馬祖列島のケーブル切断事故
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