トンガ海底火山噴火でケーブル切断 — 7万人が38日間オフラインになった日
まず読む基礎解説
2022 年 1 月 15 日、南太平洋のトンガ王国で フンガ・トンガ=フンガ・ハアパイ海底火山が大噴火した。噴煙は高度 58km(成層圏を突き抜けて中間圏に達した)に到達し、衝撃波は地球を複数回周回。1991 年のピナトゥボ噴火以来、最大規模の火山イベントだった。
しかしトンガの 7 万人の住民にとって最も深刻だったのは、噴火に伴う海底地すべりが 唯一の海底ケーブルを切断 したことだった。島国は 38 日間、インターネットと国際電話からほぼ完全に遮断された。
たった 1 本のケーブルに依存していた
トンガとフィジーを結ぶ 「Tonga Cable」(全長約 827km、2013 年敷設)は、トンガ王国の国際通信を支える唯一の海底ケーブルだった。人口 7 万人の島国の国際通信が、直径わずか 17mm のケーブル 1 本にかかっていた。
火山噴火による火砕流と海底地すべりが、このケーブルを 2 箇所で切断。海底には厚さ数十メートルの火山灰と�ite石が堆積し、ケーブルは完全に埋没した。
38 日間の「デジタル暗黒」
ケーブル切断後、トンガは以下のような状態に陥った。
- インターネット: ほぼ完全に遮断。衛星回線に切り替えたが、帯域は通常の 1/100 以下。メール 1 通を送るのに数分かかる状態
- 国際電話: 衛星電話でかろうじて通話可能だが、回線は政府・救援機関が優先
- 被災状況の把握: 津波で被害を受けた離島の状況確認に数日を要した。衛星画像でようやく被害の全容が明らかに
- 国際支援の調整: オーストラリア・ニュージーランドからの救援物資の調整に深刻な遅延。通信手段がないため、支援国側が被災地のニーズを把握できなかった
- 送金の停止: トンガの GDP の約 40% は海外在住のトンガ人からの送金。国際送金システムが使えず、家族への仕送りが止まった
修理は困難を極めた
フィジーからケーブル修理船「Reliance」(SubCom 社)が派遣されたが、修理作業は前例のない困難に直面した。
- 火山灰の堆積: 海底に堆積した火山灰と噴石がケーブルを埋め尽くし、OTDR だけでは損傷箇所の正確な位置を特定しきれなかった
- 海底地形の変化: 噴火で海底地形そのものが変わっており、ケーブルルートの再調査が必要だった
- 2 箇所の切断: 最終的にケーブルは 2 箇所で切断されていることが判明。計 105km の予備ケーブルを使って修復
- 火山活動の継続: 小規模な噴火が断続的に続いており、修理船と乗組員の安全確保が課題
ケーブルの完全復旧は 2 月 22 日。切断から 38 日後のことだった。
衛星通信の限界が露呈
ケーブル切断後、衛星通信がバックアップとして機能したが、その限界も明らかになった。衛星回線の帯域では、トンガの通常のインターネット利用の 1% にも満たなかった。「衛星があれば海底ケーブルは不要」という議論に、トンガの事例は明確な答えを突きつけた。
ただし、噴火直後の緊急通信手段としての衛星回線の価値は計り知れなかった。その後、Starlink の端末がトンガに提供され、低軌道衛星によるバックアップ体制が整備された。
教訓: 冗長性は贅沢品ではない
トンガの事例は、海底ケーブルが 1 本しかない島嶼国の脆弱性を世界に突きつけた。その後、以下の動きが加速している。
- 世界銀行: 太平洋島嶼国の通信冗長性強化プロジェクトに数億ドルを拠出
- Google の Proa ケーブル: 日本-サイパン-グアムを結ぶケーブルで、太平洋島嶼部の接続改善を目指す
- トンガ第 2 ケーブル: トンガ政府がサモア経由の第 2 ケーブル建設を検討中
- 各国の政策見直し: 島嶼国のケーブル冗長性を国際開発援助の重点項目に位置づける動き
海底ケーブルの冗長性は「贅沢品」ではなく、デジタル時代の人権インフラ と言えるかもしれない。トンガの 38 日間は、その教訓を世界に残した。
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出典
- BBC News: トンガ海底火山噴火とケーブル被害の報告