海底ケーブルとは?99%の国際通信を担う仕組み

海底ケーブルとは?99%の国際通信を担う仕組み

基礎から押さえる

世界の国際通信の99%以上は、海底に敷かれた光ファイバーケーブルが運んでいる。総延長は約140万km——地球を35周する長さだ。SNSに投稿した写真も、海外のサーバーから取得した動画も、気づかないうちに深海3,000mを超えるケーブルを通り抜けている。「衛星通信で届く」と思われがちだが、実際は違う。 ## 直径17mmの断面に詰め込まれた光ファイバー技術 深海を走る海底ケーブルの断面は、庭のホースより細い。直径はわずか約17mm——手の指より少し太い程度だ。 中心には髪の毛ほどの太さの光ファイバーが数対〜十数対束ねられ、周囲を銅管・ポリエチレン・鋼線が同心円状に包む。浅海域では漁船アンカー対策のため「鎧装(アーマリング)」と呼ばれる鋼線保護がさらに追加され、深海部と比べて直径も重量も増す。深海域の細さとのギャップを知ると、陸揚げ局周辺の太いケーブルが別物に見えてくる。 光ファイバーの中をレーザー光が走る速度は秒速約20万km。東京からロサンゼルスまでの距離をわずか0.06秒で駆け抜ける。最新のJUNOケーブルは1本で360Tbps(テラビット毎秒)の帯域を実現しており、Netflixの4K映像を同時に約9,000万本ストリーミングできる容量に相当する。 ## Starlink全6,000基を超える容量——衛星通信との決定的な差 「衛星通信があれば海底ケーブルは要らないのでは?」という疑問はもっともだ。しかし数字を比べると、両者の差は歴然としている。 Starlinkが打ち上げている衛星は現在6,000基を超えているが、全機を合算した総帯域は推定30〜80Tbps程度。対して海底ケーブル1本のJUNOは360Tbps——衛星コンステレーション全体をはるかに上回る。遅延の面でも差は大きく、太平洋横断ケーブルの往復遅延は約130ms。低軌道衛星のStarlinkでも20〜40ms程度かかり、金融取引やオンラインゲームでは数ミリ秒の差が結果を左右する。ビットあたりの通信コストに至っては、衛星の数百分の1だ。 衛星通信が不要というわけではない。離島・航空機内・洋上船舶など、ケーブルが物理的に届かない場所では衛星通信が唯一の選択肢になる。両者は競合ではなく、補完関係にある。 ## 費用3〜5億ドル——大洋を渡るケーブル敷設船の仕事 海底ケーブルの敷設は、専用の敷設船が担う。着工前には数年がかりの準備がある——海底地形の調査、関係国への許可申請、漁業権との調整など、書類仕事だけで工事の何倍もの時間を要することも珍しくない。 実際の敷設では、船尾からケーブルを繰り出しながら時速数kmでゆっくりと航行する。水深が浅い沿岸域では漁船のアンカーや底引き網からケーブルを守るため、海底に溝を掘って埋設する。水深が増すにつれて埋設は不要となり、深海では自重で海底に着底させるだけで十分だ。太平洋横断ケーブルの場合、1本の敷設には数ヶ月から1年以上を要し、建設費は3〜5億ドルに達する。 約50〜80km間隔で設置される「中継器(リピーター)」も欠かせない。光信号は長距離を進むにつれ減衰するため、中継器が信号を増幅して次の区間へ送り出す。太平洋横断ケーブルには100個以上の中継器が並ぶ。これら中継器の電力は、ケーブル内部の銅導体を通じて陸上から数千ボルトの直流電力として供給される。通信と給電を1本のケーブルで同時に行う、二重構造だ。 ## 底引き網が全障害の40%——修理に数週間かかる現実 海底ケーブルの最大の脅威は、深海生物でも激しい嵐でもない。漁船の底引き網だ。 障害原因の内訳を見ると、漁船の底引き網が約40%を占め、船のアンカー誤投下が約20%、地震・津波などの自然災害が約10%と続く。障害が発生すると専用の修理船が出動し、海底からケーブルを引き揚げて切断箇所を接続し直す。修理には数週間を要することもある。 地政学的リスクも無視できない。世界のケーブルは紅海・マラッカ海峡・台湾海峡といった数カ所のボトルネックに集中しており、1カ所での切断が複数の国の通信を同時に麻痺させうる。2022年1月には南太平洋のフンガ・トンガ海底火山が噴火し、海底ケーブルが切断された。トンガ全土が数日間にわたってほぼ完全な通信遮断に追い込まれ、衛星インターネットが緊急の補完手段となったが、容量の限界も露わになった。 ## 1858年から続く技術進化——容量は130万倍に 海底ケーブルの歴史は1858年にさかのぼる。その年、初の大西洋横断電信ケーブルが敷設され、ヴィクトリア女王とブキャナン米大統領が祝電を交わした。しかし絶縁不良のためわずか3週間で断線。本格的な運用は1866年まで持ち越された。 電信から電話へ、同軸ケーブルから光ファイバーへと技術は進化を重ねた。1988年に敷設されたTAT-8は初の大西洋横断光ファイバーケーブルで、その容量はわずか280Mbps。現在の最新ケーブル(360Tbps)と比べると、容量は実に約130万倍に膨らんだ計算になる。1本のケーブルが運べる情報量は、今この瞬間も更新され続けている。 ## AIデータセンターの急増が次の敷設ラッシュを呼ぶ 生成AIの普及が、海底ケーブルへの需要を新しい局面に引き上げつつある。大規模言語モデルの学習・推論には膨大なデータ転送が必要で、世界中のデータセンター間をつなぐ帯域への需要は急拡大している。 GoogleやMetaなどのテクノロジー企業は、すでに独自の海底ケーブルへの投資を加速させている。かつて海底ケーブルは通信キャリアが主導するインフラだったが、いまやプラットフォーム企業が主要な敷設主体となりつつある。直径17mmのケーブルが運ぶものが、電信・電話・インターネットとシフトしてきたように、次の時代はAIのデータフローが主役になる。1858年に始まったその歴史の最新章が、いま書かれている最中だ。

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出典

海底ケーブル光ファイバー通信インフラインターネット海洋技術