海底ケーブル1本450億円、誰がどう投資するのか

海底ケーブル1本450億円、誰がどう投資するのか

基礎から押さえる

太平洋を横断する海底ケーブル1本のコストは、3〜5億ドル。日本円に換算すると450〜750億円になる。世界最長の「2Africa」に至っては推定10億ドル以上、1兆円を超える巨大プロジェクトだ。 橋や新幹線と並ぶ社会インフラ投資だが、その存在は海面下に隠れている。光ファイバーを束ねた「海の幹線道路」は、どんな構造でコストが決まり、誰が投資しているのか。業界の数字から読み解く。 ## 建設費の60%を占める「中継器」の正体 海底ケーブルのコストは3区分に分かれる。ケーブル本体と中継器が全体の約60%、敷設工事が25%、陸上設備と許認可が15%だ。 このうち最も単価が高いのが中継器(リピーター)だ。光信号は長距離を伝わると減衰するため、一定間隔ごとに増幅する装置が欠かせない。太平洋横断ケーブルでは100基以上が必要で、1基あたりの推定単価は50〜100万ドルとされる。水深8,000mを超える超高圧環境で25年以上動き続ける信頼性が求められるため、製造コストは相応に高い。 ケーブル本体も精密構造物だ。光ファイバー、銅管、鋼線アーマーの多層構造で、浅海域ではアンカーや岩礁への接触リスクが高まるため、アーマー層を厚くして対応する。それが当然コストにも反映される。 ## 1日50万ドルのケーブル船チャーター費 建設費の25%を占める敷設工事では、専用船(ケーブル船)のチャーター費が支配的だ。1日あたり20〜50万ドルで、数ヶ月にわたる大洋横断工事では燃料費だけで数百万ドルに達する。 世界のケーブル船は需給が逼迫しており、計画から敷設完了まで通常3〜5年を要する。船の予約は工事着工の数年前から行われるのが業界の常識だ。 陸揚げ局(ランディングステーション)の建設も見落とせない。海底から陸上ネットワークへの接続点となるこの設備は1拠点あたり1,000〜5,000万ドルかかり、各国の規制対応や海底ルート調査と合わせて許認可コストが全体の15%を占める。 ## 2010年代に起きた「投資主体の逆転」 かつて海底ケーブルへの投資は、AT&TやNTT、BTといった通信事業者のコンソーシアムが中心だった。複数社がコストとファイバーペアを分担することで、1社あたりの負担を数十億円レベルに抑える仕組みだ。リスク分散と初期投資軽減という合理性があった。 転換点は2010年代。GoogleとMeta、Microsoft、Amazonの4社が急速にシェアを拡大した。2024年時点では、新設ケーブル投資額の約70%がビッグテック主導となっている。Googleだけでも20本以上のケーブルプロジェクトに出資または単独保有し、累計投資額は推定100億ドルを超えるとされる。 背景にある戦略は明確だ。クラウドとAIサービスの品質を他社インフラに依存したくない。自社で全容量を保有する「プライベートケーブル」方式なら、需要予測に基づいた柔軟な増強が可能で、遅延とセキュリティリスクも自社でコントロールできる。 ## 1Tbpsあたりコストが25年で1/100以下に 海底ケーブルの経済学で見落とされがちな視点が、技術革新によるコスト低下だ。 1Tbpsあたりの伝送コストは、2000年頃の約1,000万ドルから、2010年に300万ドル、2020年に30万ドル、そして2025年には10万ドル以下まで低下した。25年間で100分の1以下という劇的な変化だ。 コスト低下の主な要因は光ファイバー技術の進歩と、1本のケーブルに収容できるファイバーペア数の増加にある。現代の大容量ケーブルは16ペア以上を収容し、波長分割多重(WDM)技術によって1ペアあたりの伝送容量も年々拡大している。同じ予算で桁違いの容量を確保できる時代になったからこそ、プライベートケーブルの投資回収計算が成り立つ。 ## 建設費は「総コストの半分」にすぎない 海底ケーブルの本当のコストを理解するには、25年間の運用期間全体で考える必要がある。陸揚げ局の電力費、ネットワーク監視、そして障害修理費が継続的に発生するからだ。建設費はあくまで「開業コスト」にすぎず、トータルの投資額は建設費の倍近くになるケースもある。 特に修理費は想定外の出費になりやすい。海底ケーブルの切断は年間100件以上発生しており、修理船の派遣と作業には1件あたり数百万〜数千万ドルかかることもある。プライベートケーブルを保有する企業はこのリスクを単独で負う。コンソーシアム方式との選択は、初期投資の比較だけでなく、長期的なリスク分担の経営判断でもある。 ## 「1兆円超え」の時代に向かう海底インフラ投資 海底ケーブルの大型化も現代の特徴だ。アフリカ・中東・欧州を結ぶ「2Africa」は総延長4万5,000km、推定建設費10億ドル以上という史上最大規模で、完成後はアフリカ大陸全体のインターネット容量を大幅に増強する。 大型化の背景には規模の経済がある。1本のケーブルで運ぶファイバーペア数を増やすほど、1ペアあたりの敷設コストは下がる。複数の通信事業者とビッグテックが相乗りする大型プロジェクトが増えているのは、この計算が合うからだ。 テクノロジー企業の「見えないインフラ戦争」は、海の底でも続いている。データセンターや衛星通信と並び、深海に張り巡らされた光ファイバーの網こそが、デジタル経済の命脈を握る基盤だ。コスト低下と大型化が同時進行する今、投資競争はさらに加速していく。

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