南海トラフで海底ケーブルは切れる?2011年の答え
基礎から押さえる
2006年12月26日、台湾南西沖でM7.0の地震が発生し、南シナ海の海底ケーブル9本が同時に切断された。アジア全域でインターネット速度が急落し、国際電話やデータ通信に大規模な障害が発生。完全な復旧まで49日を要した。それから5年後、日本は桁違いの規模で同じ問いに直面することになる。
## M9.0が証明した「冗長化」の有効性——2011年、東北沖で何が起きたか
2011年3月11日、東日本大震災(M9.0)は太平洋沿岸を壊滅させただけでなく、海底の世界にも深刻な爪痕を残した。東北沖では海底地すべりが連鎖し、少なくとも5本の国際海底ケーブルが損傷した。
通常のケーブル修理では、専用修理船が海底からケーブルを引き上げ、切断箇所を接続して戻す作業に数週間かかる。2011年はそれが大幅に延びた。余震が続く中での作業は危険で、海底地形も変化していた。復旧まで最大6ヶ月を要したケースもある。
それでも日本の国際通信は途絶しなかった。太平洋側のケーブルが使えなくなる中、日本海側のルートや別の陸揚げ地点を経由するケーブルが通信を維持し続けた。「複数のルートを持つ」という設計思想——冗長化——が、最悪の局面で機能した実証だった。
## 海底ケーブルを破断させる「混濁流」——時速数百kmの海底の濁流
地震がケーブルを直接壊す場面を想像しがちだが、実際の最大の脅威は別にある。海底地すべりが引き起こす**混濁流(タービダイトカレント)**だ。
地震の揺れで海底の堆積物——泥や砂が数メートルの厚さで積もった海底面——が一斉に崩壊し、時速数十〜数百kmの高速流となって大陸斜面を下る。この流れは密度が高く、巨大なケーブルでも物理的に引きちぎる。しかも広範囲を同時に通過するため、1回の地震で複数地点のケーブルが一度に被害を受ける。2006年の台湾沖地震でケーブル9本が同日に切断されたのは、まさにこのメカニズムだ。
活断層による直接の断層変位もリスクとして存在するが、現代のケーブルは詳細な海底地質調査(ルートサーベイ)に基づき、既知の活断層を最大限避けてルーティングされている。完全な回避は不可能だが、ルート設計によってリスクは大幅に軽減されている。
## 津波はケーブルを壊さない——しかし「陸揚げ局」は別の話
海底ケーブルにとって津波は脅威ではない——多くの人が意外に感じる事実だ。
外洋での津波は波高が数十cmに過ぎず、水深数千mの海底付近に生じる水の動きはごくわずかだ。深海のケーブルに津波が影響を与えることはまずない。浅い沿岸部でも、波が海底のケーブルを損傷させるほどのエネルギーはない。
問題は海岸線にある「陸揚げ局」だ。ここはケーブルが海底から陸上に引き上げられる施設で、光信号の中継や電力供給の制御を行う。津波でこの施設が浸水すれば、海底のケーブルが完全に無傷でも通信は止まる。2011年の東日本大震災では太平洋側の陸揚げ局が実際に被災し、ケーブルの物理的な損傷以上に復旧を複雑にした。
## 南海トラフM8〜9への備え——ルート分散と高台移転
南海トラフ地震(想定M8〜9クラス)は太平洋側の広範囲に影響を及ぼし、東日本大震災を上回る規模の海底被害が想定される。通信事業者はすでに複数の対策を実施している。
ルートの分散が柱だ。RJCN(Russia-Japan Cable Network)など日本海側を経由するケーブルの整備により、太平洋側が軒並み被害を受けても別の回廊で通信を維持できる設計になっている。陸揚げ地点も北海道の石狩から沖縄まで分散させており、特定地域の被害が全体に波及しにくい構造を作っている。
陸揚げ局の耐災害性強化も進んでいる。新設施設は津波浸水想定区域外の高台に建設され、既存施設には防水壁と水密扉が設置されている。停電時にも海底中継器への給電を継続できる自家発電設備の整備も広がっている。修理体制の面では、日本周辺に常時ケーブル修理船を配備する業界合意があり、大規模被害の際に複数の船舶が連携して動けるよう取り決めが整備されている。
## 「切れても繋がる」から「切れたとき素早く直す」へ
率直に言えば、南海トラフ巨大地震が起きれば太平洋側のケーブルのいくつかは被害を受ける。それは2011年の実績が示している。問題は「切れるかどうか」ではなく、「切れた後にどこまで通信を維持できるか」と「どれだけ速く修理できるか」だ。
2011年が与えた最大の教訓は、冗長化が「理論」ではなく「実証済み」の安全網だということだ。今後の課題は修理の速さにある。大規模な海底地すべりの後、海が安定して作業できるようになるまで数週間〜数ヶ月かかるシナリオは排除できない。その間、どのルートがどれだけの通信を吸収できるか——その限界を知り、さらなる冗長性を積み重ねていく作業が、今も静かに続いている。
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よくある質問
- 地震で海底ケーブルが切れたらインターネットは使えなくなる?
- 完全に途絶する可能性は極めて低いです。日本には30本以上のケーブルが異なるルート・方角で接続されており、冗長化されています。東日本大震災でも国際通信は途絶しませんでした。ただし帯域の大幅な低下は起こりえます。
- 南海トラフ地震に対する海底ケーブルの備えは?
- ルート分散(日本海側にもケーブル敷設)、陸揚げ地点の分散(千倉・志摩・丸山・高萩・北九州など)、陸揚げ局の防災強化(高台移転・防水壁)、修理船の常駐などの対策が取られています。
出典
- ISCPC: 海底ケーブルの災害リスク分析