海底ケーブルは太さ17mm|構造と盗聴史
深海を走る海底ケーブルの直径は、わずか17mm。庭の散水ホースとほぼ同じ太さの一本が、世界のインターネット通信のおよそ99%を運んでいます。今あなたが読んでいるこの文章も、地球の裏側のサーバーから光の信号となり、暗い海底を渡ってきたものかもしれません。細い一本がなぜ世界の通信を支えられるのか、どんな構造で、どんな脅威にさらされてきたのか。10年以上この業界を取材してきた立場から、その意外な実像を案内します。
## 深海の17mmが、浅瀬では100mm近くまで太る理由
水深8,000メートルを超えるような大洋の底では、ケーブルは驚くほど細い。直径17mm前後、太いボールペンを少し大きくした程度です。光も届かない静寂の世界では、船の錨も漁の網も届かず、物理的に傷つくリスクがほとんどない。だから余計な鎧を着せる必要がありません。
ところが大陸棚に近づき、水深が浅くなるにつれて、同じケーブルが姿を変えます。直径は50mmを超え、沿岸の浅い海域では100mm近くまで太くなる。屈強な鎧をまとうように、太く、重く、頑丈に。
理由は単純で、浅い海ほど危険だからです。海底ケーブル故障の原因は、その7割近くが船の錨や底引き網といった人間の活動によるもの。自然災害よりも、むしろ人間のほうがケーブルを切ってきました。そこで浅海部では「アーマー」と呼ばれる鉄線を何重にも巻きつけ、衝撃への耐性を限界まで高めています。深海では身軽に、浅海ではたくましく。場所に応じて装いを変えるのが、現代の海底ケーブルの流儀です。
## 鉛筆ほどの断面に、光・電力・鋼線が同居する
17mmという細さの内側は、精密な多層構造になっています。中心を走るのは髪の毛ほどの細さの光ファイバー。これが通信の主役で、データそのものを運ぶ部分です。
その周囲を、ファイバーを束ねて保護する樹脂が包み込みます。さらに外側には、海底の中継器へ電力を送るための銅管。深海に沈んだ装置を動かす電気も、このケーブル一本でまかなうわけです。銅管の外を絶縁体のポリエチレンが幾重にも覆い、最も外側を鋼線(スチールワイヤー)が固める。敷設のときにかかる猛烈な張力に耐え、海底に沈めても切れないための骨格です。
通信・給電・強度。役割の違う層が、鉛筆ほどの断面に無駄なく同居している。この設計思想こそが、細さと頑丈さを両立させる鍵になっています。
## サメがケーブルを噛む、という実話
海底ケーブルをめぐる脅威の話で、必ず登場する生き物がいます。サメです。
冗談のようですが、過去にはサメがケーブルに噛みつき、実際に通信障害が起きた記録が残っています。なぜサメが狙うのか。有力なのは、信号を増幅する中継器などが発するわずかな電磁場を、サメが獲物の筋肉が出す微弱な電気と勘違いして引き寄せられる、という説。海の捕食者にとって、ケーブルは生きた獲物に見えてしまうらしいのです。
この教訓から、現在のケーブルはサメの歯が内部の光ファイバーまで届かないよう、強固な保護層を備えるのが標準になりました。船の錨、漁網、そしてサメ。海の中には、細い通信路を断とうとするものが思いのほか多い。それでも通信が止まらないのは、こうした一つひとつの失敗を設計に織り込んできた積み重ねがあるからです。
## 髪の毛1本で毎秒200テラビット、映画400万本分
物理的な頑丈さ以上に驚かされるのが、その伝送能力です。中心を走る髪の毛ほどの光ファイバー1本で、最新世代では毎秒200テラビット――200兆ビットを超えるデータを運べます。
この数字は、ふだんの感覚ではつかみきれません。高画質の映画1本をおよそ50ギガビットとすると、1秒間に約400万本の映画を流せる計算。しかも1本のケーブルには、こうしたファイバーが数十本も束ねて収められています。総容量はもはや天文学的としか言いようがない。
かつての銅線ケーブルとは、まさに次元が違います。1956年に開通した世界初の大西洋横断電話ケーブルTAT-1が同時に扱えたのは、わずか36回線。電話をかけられる人数が36人分だった時代から、たった一本で世界中が同時に動画を再生できる時代へ。この飛躍が、いまのグローバルなインターネット社会を物理的に支えています。
## 冷戦下の盗聴作戦「アイヴィー・ベルズ」
世界の通信を一手に握るインフラは、当然、諜報の標的にもなってきました。その象徴が、冷戦期にアメリカが実行した「アイヴィー・ベルズ作戦」です。
1970年代、米海軍はソ連の軍事通信を傍受するため、オホーツク海の海底に敷かれたソ連軍用ケーブルへ特殊な盗聴装置を取りつけました。当時のケーブルは銅線で、信号の一部が漏洩電磁波としてケーブルの外へわずかに漏れていた。その漏れを拾えば、ケーブルを切らずに中身を読める。原子力潜水艦ハリバットがこの危険な任務を担い、装置はケーブルに巻きつけるだけで通信を記録し続けたとされます。
切断せずに盗み聞きできた背景には、銅線という素材の弱点がありました。では現在主流の光ファイバーはどうか。光は外へ漏れにくく、信号を抜き取ろうとすればケーブルを物理的に加工する必要があり、それは通信の異常としてほぼ確実に検知されます。盗聴の難易度は、銅から光への移行で大きく跳ね上がった。
それでも、海底ケーブルが地政学の最前線であり続けている事実は変わりません。一国の経済も軍事も、この細い線の上を流れる信号に依存している。17mmのホースほどの太さに世界の神経が通っていると考えると、次に海を見るとき、その下を走る一本のことを少しだけ思い出すかもしれません。
この記事は信頼性の高い業界情報源に基づき作成し、編集部が内容を確認・監修しています。お気づきの点はお問い合わせよりお知らせください。
よくある質問
- 海底ケーブルが切れたらどうなるのですか?
- 1本のケーブルが切れても、すぐにインターネットが止まるわけではありません。通信は世界中に張り巡らされた他のケーブル網に自動で迂回(うかい)されますが、特定の地域では通信速度の低下や遅延が発生することがあります。
- 海底ケーブルの寿命はどのくらいですか?
- 海底ケーブルの設計上の寿命は、一般的に約25年とされています。しかし、技術の進歩が非常に速いため、物理的な寿命が来る前に、より大容量の新しいケーブルへと置き換えられることも少なくありません。
- サメは本当に海底ケーブルを噛むのですか?
- はい、過去にはサメがケーブルを噛む被害が実際に報告されています。ケーブルから発生する電磁場にサメが獲物と勘違いして引き寄せられるという説が有力で、現在ではサメの歯が通らないよう強固な保護層で対策されています。
出典
- 資料1, 2: 海底ケーブルの太さはどのくらい?構造と断面図で解説: 深海部のケーブル直径(約17mm、庭のホースほど)、浅海部のケーブル直径(アーマー付きで最大50mm以上)、ケーブルの断面構造(光ファイバー、銅管、ポリエチレン、鋼線)、なぜ細いのか(深海では外敵が少ない)、浅海部で太くなる理由(錨、漁業、サメ対策)
- 資料3: 海底ケーブルの盗聴は可能か?通信傍受の歴史と現代の防御技術: 冷戦時代の海底ケーブル盗聴(アイヴィー・ベルズ作戦)、光ファイバーの盗聴技術的難しさ、スノーデンリークで明らかになった現代の監視プログラム、現代の暗号化技術による防御(量子暗号を含む)