海底ケーブルの費用は1本数百億円
世界を行き交う国際通信データの99%は、空ではなく海の底を通っています。衛星を思い浮かべる人は多いのですが、私たちが毎日見る動画も、送り合うメッセージも、そのほとんどは海底に横たわる一本のケーブルが運んでいます。太平洋の最も深い場所では水深8,000mを越え、世界に張り巡らされた総延長は地球を30周しても足りません。1本の建設費は数百億円。なぜそれほどの金額を、誰が、何のために払うのか。海の底を走る「光の道」をたどります。
## 日本に届く30本超のケーブルが「生命線」と呼ばれる理由
島国の日本にとって、海底ケーブルは経済と生活をつなぐ生命線そのものです。現在、日本には30本を超える主要な海底ケーブルが陸揚げされ、世界中の情報ハイウェイと結ばれています。
これらは行き先でおおきく三つに分かれます。日本と北米を結ぶ太平洋横断系には、Googleが主導した「FASTER」や後継の「JUPITER」、NTTやソフトバンクが参画する「PC-1」。シンガポールや香港、フィリピンへ伸びるアジア域内系には「SJC」や「AAG」。そしてロシアや韓国へ渡る日本海横断系。方角の違うルートを何本も持つことに、ちゃんと意味があります。
ケーブルが海から陸へ上がる場所を陸揚局と呼びます。日本では千葉県の千倉や南房総、三重県の志摩、福岡県の北九州など、特定の地域に集中しています。理由は冗長性の確保。太平洋側で1本が切れても、日本海側や別のアジア域内ケーブルへ通信を逃がせる設計です。だからケーブルが1本傷ついた程度では、手元のスマートフォンが急に圏外になることはありません。その安定の裏側に、綿密に計算されたネットワーク設計が隠れています。
## 1本数百億円を、通信会社ではなくGoogleが払う時代
太平洋を横断する長距離ケーブルの建設費は、1本あたり数百億円。条件によっては1,000億円を超えます。内訳はケーブルの製造費だけではありません。海底の地形を数か月かけて測る海洋調査、ケーブルを海に沈めていく専用船「ケーブル敷設船」のチャーター。どれも桁外れで、まさに国家プロジェクト級の投資です。
長らくこの巨費は、KDDIやNTTなど各国の通信事業者が共同出資する「コンソーシアム方式」で賄われてきました。リスクと費用を分け合い、完成したケーブルの容量を各社で配分する仕組みです。
潮目が変わったのは2016年。運用を始めた「FASTER」を主導したのは、通信会社ではなくGoogleでした。検索やYouTube、Gmailのデータを自前で速く安定して運ぶため、自らインフラに投資したのです。以降、Meta、Amazon、Microsoftといった巨大IT企業が、自社専用の「プライベートケーブル」を次々に建設しています。ネットワークの速さがサービスの質に直結する以上、回線は他社任せにせず自分で握る——そんな時代に入りました。
## 直径6cmのケーブルが毎秒60テラビットを運ぶ
海底ケーブルというと水道管のような太い管を想像しがちですが、実際に光を通すガラス繊維は髪の毛ほどの細さしかありません。それを何層もの保護材で包んで、ようやく直径6cmほど。この細いガラスの糸が、とんでもない量の情報を運びます。
FASTERは6対の光ファイバーを束ね、毎秒60テラビットという当時世界最大級の容量を実現しました。HD画質の映画でいえば、およそ1,500本を1秒で送り切る計算です。このケーブルは千葉の千倉と三重の志摩から海へ入り、台湾を経由して米国オレゴン州まで、総延長11,629kmを一本で結びました。日本からアメリカ西海岸まで、海の底をひとつなぎ。
## 10年足らずで容量5倍、2025年に毎秒350テラビットが動き出す
進化の速さこそ、この世界の本当の見どころです。FASTERの開通から10年と経たない2025年、後継のひとつ「JUNO」が運用を始めます。設計容量は毎秒350テラビット。1本が運べる情報量は、わずか10年弱で5倍以上に膨らみました。一時代を築いたFASTERでさえ、すでに過去のスペックになりつつあります。
増え続ける容量の裏で、ケーブルが背負うリスクも大きくなっています。漁網や船の錨、海底地震、そして国家間の緊張。データの99%が通る細いガラスの糸は、世界の急所でもあります。切れれば修理船が現場へ向かい、深海から1本を引き上げてつなぎ直す——その地道な作業が、今日も世界のどこかで続いています。次に動画を再生するとき、その映像は人工衛星ではなく、暗い海の底を1万km走ってきた光なのだと、少しだけ想像してみてください。
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よくある質問
- 日本には何本くらいの海底ケーブルが接続されているのですか?
- 現在、日本には30本以上の主要な海底ケーブルが接続されており、北米、アジア、ロシアなど世界中と結ばれています。災害などに備え、複数のルートで通信が確保されるようになっています。
- 海底ケーブルがサメに噛まれるって本当ですか?
- はい、本当です。特に水深の浅い場所では、サメがケーブルに興味を示して噛みつく被害が過去に報告されています。現在では、ケーブルの保護を強化するなどの対策が取られています。
- なぜGoogleやAmazonのようなIT企業が自ら海底ケーブルを敷くのですか?
- 自社サービスで発生する膨大なデータを、より速く、より安定して世界中に届けるためです。通信会社に依存するのではなく、自らインフラを所有・管理することで、サービスの品質向上とコスト管理を直接コントロールできるようになります。
出典
- 資料1: 日本に接続する海底ケーブルは何本?主要ルートと接続先を一覧で解説: 日本に接続する主要海底ケーブルの総数(現在の概数)
- 資料1: 日本に接続する海底ケーブルは何本?主要ルートと接続先を一覧で解説: 太平洋横断系(FASTER, JUPITER, PC-1, TPE等)、アジア域内系(SJC, AAG, EAC, FLAG等)、日本海横断系(AJC等)
- 資料1: 日本に接続する海底ケーブルは何本?主要ルートと接続先を一覧で解説: 陸揚げ地点別の分類(千倉、志摩、北九州、沖縄等)
- 資料2: FASTERケーブル解説 ― GoogleとKDDIが主導した60Tbps太平洋横断の転換点: FASTERのルート(千倉・志摩 → 台湾 → 米国オレゴン 11,629km)と2拠点陸揚げ
- 資料2: FASTERケーブル解説 ― GoogleとKDDIが主導した60Tbps太平洋横断の転換点: Google・KDDI・China Telecom・SingTelなど出資企業の思惑と、GAFAの海底ケーブル戦略の始まり
- 資料2: FASTERケーブル解説 ― GoogleとKDDIが主導した60Tbps太平洋横断の転換点: 6ファイバーペア・60Tbpsというスペックと後継のJUNOとの容量差
- 資料3: 海底ケーブルの費用 ― 1本のケーブルに数百億円かかる理由: 海底ケーブル建設の総費用(数百億〜数千億円)とその内訳
- 資料3: 海底ケーブルの費用 ― 1本のケーブルに数百億円かかる理由: 投資回収の仕組み(コンソーシアム方式 vs プライベートケーブル)とGoogle/Meta/Amazonの投資