570Tbps級の海底ケーブル新設ラッシュ、アジア・アフリカで何が?
まず読む基礎解説
フィリピンの通信大手Globe Telecomが、アジア6カ国を結ぶ総延長約8,000kmの新海底ケーブル「Candle」計画のコンソーシアムに参加した。この動きは、アジアやアフリカで加速する次世代通信インフラ整備の潮流を象徴する出来事だ。5Gや生成AIがもたらすデータ爆発時代を迎え、世界の情報の「大動脈」である海底ケーブルの重要性がかつてなく高まっている。
## アジアを横断する毎秒570テラビットの巨大回線
今回、Globe Telecomの参加が発表された「Candle Cable System」は、日本、台湾、フィリピン、インドネシア、マレーシア、シンガポールを結ぶ巨大プロジェクトだ。2028年の運用開始を目指しており、その通信容量は毎秒570テラビット(Tbps)という驚異的なスペックを誇る。これは、24対の光ファイバーによって実現されるもので、近年のケーブルの中でも最大級の容量となる。
このプロジェクトは通信事業者だけでなく、ソフトバンクやMeta(旧Facebook)といった巨大テック企業も名を連ねるコンソーシアムによって推進されている。自社のサービスを支える膨大なデータトラフィックを安定して処理するため、IT企業自らがインフラ整備の主役となりつつある。この潮流は、もはや止められない。
## なぜ今、アジアで大容量ケーブルが必要なのか?
これほどの大容量ケーブルがアジアで求められる背景は明確だ。その一つが、5G通信の普及や生成AIの利用拡大による、爆発的なデータ通信需要の増加である。特に経済成長が著しい東南アジアでは、デジタルサービスの利用が急拡大しており、既存の通信インフラでは数年後には逼迫することが確実視されている。
もう一つの重要な目的は「冗長性の確保」だ。海底ケーブルは地震などの自然災害や、大型船の錨(いかり)によって切断されるリスクが常にある。主要な通信ルートが一つ断絶すれば、経済活動や市民生活に甚大な影響が出かねない。複数の異なるルートで大容量の通信網を確保しておくことは、国家のデジタルインフラ戦略において死活問題なのだ。Candleは、増大する需要に応えると同時に、アジア全体の通信網の耐性を高める役割も担う。
## アフリカでも進むデジタル格差是正への挑戦
通信インフラ増強の波は、アジアだけにとどまらない。アフリカ大陸でも、デジタルデバイド(情報格差)是正に向けた野心的な挑戦が始まっている。西アフリカに位置する赤道ギニア政府は、地中海と大西洋を結ぶ「Medusa」海底ケーブルシステムへの接続を検討していることが報じられた。
Medusaは、当初地中海沿岸諸国を結ぶ計画だったが、アフリカまで延伸されたプロジェクトだ。総容量は毎秒480テラビット、24対の光ファイバーペアを持つ高性能ケーブルである。赤道ギニアにとって、このケーブルへの接続は単なる通信速度の向上以上の意味を持つ。ネットワークの安定性を高め、頻発する通信障害を減らし、国民のデジタルアクセスを抜本的に改善する切り札となり得るからだ。
この接続計画には2000万〜6000万ユーロの費用が見積もられており、2029年から2030年の実現を目指している。実現すれば、アフリカにおける情報格差是正の大きな一歩となるだろう。
## デジタル経済の重心移動と新たな課題
アジアやアフリカで相次ぐ巨大プロジェクトは、世界のデジタル経済の重心が、もはや欧米だけでなくこれらの地域へ明確にシフトしつつあることを示している。これは新たな経済成長の起爆剤となる一方、新たな課題も生む。高性能なケーブルを敷設・保守できる特殊作業船は世界的に不足しており、地政学的な緊張の高まりは、偶発的な切断や意図的な妨害行為といったリスクを増大させる。
海底ケーブルは、単なる技術インフラではない。データという現代の石油を運ぶパイプラインであり、経済安全保障を左右する戦略資産だ。インドの通信大手Bharti Airtelが、今や世界第2位の携帯電話契約者数を抱える巨大グループに成長したように、新興国のプレイヤーの台頭も著しい。次世代のグローバルな情報流通網を誰が、どのようにコントロールしていくのか。海底を舞台にした静かな競争は、今後さらに激化の一途をたどるに違いない。
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よくある質問
- 海底ケーブルの容量「Tbps」とは、どれくらいのデータ量ですか?
- 「Tbps」はテラビット毎秒の略で、1秒間に1兆ビットのデータを転送できる速度です。例えば、記事で紹介された570Tbpsは、1秒間に高画質な映画(約2時間)を2万本以上ダウンロードできるほどの圧倒的な通信容量に相当します。
- なぜMeta(旧Facebook)のようなIT企業が海底ケーブルに投資するのですか?
- 世界中に展開する自社のデータセンター間を大容量かつ低遅延で接続し、SNSやメッセージング、VRといったサービスの品質を安定させるためです。増え続けるデータ量を既存の通信事業者に頼るだけでなく、自らインフラを確保することで事業の安定性を高める狙いがあります。
- 海底ケーブルの寿命はどのくらいですか?また、切れたらどうなりますか?
- 海底ケーブルの設計上の寿命は、一般的に約25年とされています。地震や船の錨などで万が一切断された場合は、専用のケーブル敷設船が現場海域で修復作業にあたります。そのため、主要な通信ルートでは複数のケーブルを敷設して冗長性を確保し、一つの障害が通信全体に影響を及ぼさないように設計されています。
出典
- SubTel Forum: Philippines operator Globe Telecom has joined the Candle Cable System consortium, an approximately 8,000 kilometre submarine cable system connecting Japan, Taiwan, the Philippines, Indonesia, Malaysia and Singapore, which is scheduled to begin operations in 2028.
- SubTel Forum: The construction of the Candle submarine cable system will contribute to infrastructure expansion and secure redundant routes to meet the increasing demand for data communications driven by 5G and generative AI.
- SubTel Forum: Its 24 fibre pair configuration will enabling the construction of higher-capacity, lower-latency communications infrastructure to support improved connectivity across Asia. Candle will provide up to 570 terabits per second of total capacity once online.
- SubTel Forum: SoftBank Corp announced in September last year plans to collaborate with Meta, IPS Inc, TM Technology Services, and PT XLSmart Telecom to develop the new international submarine cable system.
- SubTel Forum: According to a number of recent news reports, the government of Equatorial Guinea is considering joining the Medusa subsea cable to improve network stability.
- SubTel Forum: Medusa is a submarine cable system linking the Mediterranean countries with the Atlantic and the Red Sea. While it was initially planned to connect Mediterranean countries, the project has been extended to Africa.
- SubTel Forum: The system is designed to deliver a capacity of 480 terabits per second through a total of 24 fibre pairs.
- SubTel Forum: The plan for Equatorial Guinea to join the cable, estimated to cost at €20–60 million (about US$23.1 million to US$69.3 million), with rollout targeted for 2029–2030, could cut outages, lower costs and expand digital access.
- TeleGeography: Indian telco Bharti Airtel isn't simply a major player in international telecom—it's now the world’s second largest international telco group in terms of mobile subscriptions, behind undisputed top dog China Mobile.