海底ケーブルが200Tbpsを運ぶ仕組み

海底ケーブルが200Tbpsを運ぶ仕組み

基礎から押さえる

130万kmを超える光ファイバーが、いま深海に横たわっています。地球の赤道を30周以上できる長さのケーブルが、私たちが毎日送るメール、動画通話、SNSの投稿を——国際データの99%を——深海で運んでいます。衛星通信が話題になる時代でも、国際通信の主役はあの暗い海底です。 ## 光ファイバー1ペアで毎秒200テラビット——ケーブルの断面構造 ケーブルの断面を想像してください。中心には直径0.125mm、髪の毛ほどの細さのガラス繊維「光ファイバー」が数十〜数百本束ねられています。各ファイバーは全反射を利用して光を内部に閉じ込めながら信号を伝える仕組みです。 最新システムでは、光ファイバー1本のペアで毎秒200テラビット(200Tbps)を超える通信容量を実現するものが登場しています。1秒間でブルーレイディスク約4,000枚分のデータを転送できる計算。太平洋横断ケーブルの実力は、私たちの日常感覚をはるかに超えています。 繊細な光ファイバーを守るため、ケーブルは多重に保護されます。光ファイバーを収めた銅管の外側に高張力鋼線を巻き付け、防水性ポリエチレン樹脂でさらに覆う構造です。最終的な直径は成人男性の腕ほどになります。水深8,000mを超える高水圧でも、船の錨にも、サメの噛み付きにも耐える設計になっています。 ## スパン長50〜100kmが左右する通信品質とコスト 光ファイバーの中を伝わる信号は、距離とともに徐々に弱まります。「光損失」と呼ばれるこの現象に対処するため、海底ケーブルには一定間隔で「中継器」が取り付けられています。スパン長とは、光信号を増幅する中継器と中継器の間の距離のことで、一般的に50kmから100km程度に設定されます。 スパン長を短くすれば信号品質は上がりますが、高価な中継器の設置数が増えてコストと消費電力が増大します。長くすれば経済的になる半面、信号が弱まりすぎてノイズに負けやすくなる。このトレードオフをどう最適化するかが、ケーブル設計の核心です。 「分布ラマン増幅」という技術も実用化されています。光ファイバー自体を増幅媒体として機能させることで、中継器の間隔を従来より広げながら品質を維持できます。コスト削減と品質向上の両立を目指す、実装が進む技術です。 ## 遠隔操作で光のルートを瞬時に切り替えるROADMの仕組み 太平洋横断ケーブルも、途中の島や国で一部の通信を「降ろしたり」「乗せたり」する分岐処理が必要です。この役割を担うのが「ROADM(Reconfigurable Optical Add-Drop Multiplexer)」です。 ROADMはネットワーク上を流れる光信号の中から特定の波長(色)の信号だけを取り出したり(ドロップ)、新たに追加したり(アド)できる装置です。光ファイバーの中には虹のように様々な波長の信号が同時に流れており、「この波長はA地点へ、あの波長はB地点へ」という振り分けを、監視センターからのソフトウェア操作で遠隔実行できます。 かつてのOADMでは、分岐・追加作業のたびに技術者が現地に出向く必要がありました。ROADMの普及で、急増する通信需要への対応も、障害時の迂回ルート設定も、オフィスから数クリックで完結します。現代のクラウドサービスや動画配信を安定供給する根幹技術の一つです。 ## 数百億円の建設費とGAFAが独自ケーブルに参入した理由 太平洋を横断する海底ケーブル1本の建設費は、数百億円から1,000億円超に達することもあります。かつてはNTTやAT&Tのような通信キャリアが主な出資者でしたが、2010年代以降は様相が変わりました。 GoogleやMeta(旧Facebook)、Amazonが独自のケーブル敷設に乗り出しています。自社のデータセンター間を直接つなぎ、クラウドサービスの速度と信頼性を確保するためです。2023年時点でGoogleは世界に約20本の海底ケーブルを保有または出資しており、最新の「Firmina」ケーブルは南北アメリカ間を結ぶ全長1万2,000kmを超えるシステムです。 敷設を担う専用ケーブル敷設船は全長150mを超える巨大船。1日に数百kmのペースでケーブルを海底に沈めます。浅海では海底に埋設して錨や漁業被害を防ぎ、深海では重力に任せて布設する——水深に応じた工法の使い分けも、長年の現場経験から生まれた知見です。 ## 年間約200件の切断リスクと深海の修理作業 海底ケーブルは「切れること」を前提に設計されています。世界では毎年約200件のケーブル障害が発生しており、その7割以上が船の錨や漁業活動によるものです。深海地震や海底土砂崩れも無視できないリスクです。 重要な通信ルートが複数のケーブルで冗長化されているのはそのためです。1本が切断されても別のケーブルや衛星回線に自動切り替えする仕組みにより、エンドユーザーには障害が気づかれないことも多くあります。修理には専用の作業船が出動し、海底からケーブルを引き揚げて切断箇所をつなぎ直す。水深が深い場合、完了まで数週間を要することもあります。 ## 2030年代のAI監視と光インフラの行方 次世代の海底ケーブルシステムでは、2030年代にかけていくつかの変革が予測されています。中継器への給電系統の高効率化と、AIを活用したリアルタイム障害予知の本格導入が主な柱です。 障害予知AIは、ケーブル内の光信号品質データを常時解析し、切断が起きる前の劣化傾向を検知します。「切れてから修理する」から「切れる前に対処する」への転換が実現すれば、通信断の時間と修理コストを大幅に削減できます。環境面でも、サンゴ礁への影響を最小化する布設ルート選定アルゴリズムの研究が進んでいます。 深海のケーブルは、私たちが意識することのない場所で動き続けるインフラです。130万kmの光の道を保つために、工学の精緻な設計と数千億円規模の投資と、海上で黙々と作業する技術者たちがいる。その事実を知ることは、私たちが無意識に依存するデジタル社会の実像を、少し正確に見ることにもなります。

この記事は信頼性の高い業界情報源に基づき作成し、編集部が内容を確認・監修しています。お気づきの点はお問い合わせよりお知らせください。

よくある質問

海底ケーブルがサメに噛まれたり、船の錨で切れたりしたらどうなるのですか?
多くの海底ケーブルは複数の迂回ルートを持つリング状に構成されているため、1本が切れても通信は自動的に別のルートに切り替わります。そのため、利用者が通信断を意識することはほとんどありません。
海底ケーブルの寿命はどのくらいですか?
物理的な設計寿命は一般的に25年程度とされています。しかし、通信容量の需要増大と技術革新の速さから、物理的な寿命を迎える前に、より高性能な新しいケーブルに置き換えられることが多くなっています。
なぜGoogleやMetaのようなIT企業が自ら海底ケーブルを敷設するのですか?
世界中のデータセンター間でやり取りする自社の膨大なデータを、より高速・大容量・安定的に、そして低コストで輸送するためです。自社サービス品質を担保するために、輸送路であるインフラそのものを所有する戦略を取っています。

出典

海底ケーブル光ファイバー通信インフラROADMとは中継器