海底ケーブル建設費は誰が払う?GAFA vs 通信会社の巨大プロジェクト最前線

海底ケーブル建設費は誰が払う?GAFA vs 通信会社の巨大プロジェクト最前線

基礎から押さえる

2027年、日本とアメリカを繋ぐ新たな大動脈が誕生します。Meta(旧Facebook)とNTTグループが共同で建設する次世代海底ケーブル「E2A」です。私たちが普段何気なく利用するインターネット、クラウドサービス、そして国際電話。その通信量の99%以上が、地球の海底に張り巡らされたケーブルによって支えられています。このデジタル社会の根幹をなすインフラは、一体誰が、どのようにして建設しているのでしょうか。総工費が数千億円にものぼる巨大プロジェクトの裏側には、GAFAと伝統的な通信会社による主導権争いが存在します。 ## 「建設費は数千億円、所有者は誰?」海底ケーブルの2つの作り方 太平洋を横断するような大規模な海底ケーブルの建設には、数百億円から時には1,000億円を超える莫大な費用がかかります。この巨額の投資を回収し、国際通信を支える仕組みは、大きく分けて2つのモデルに分類できます。 一つは「コンソーシアム型」。これは、世界各国の複数の通信事業者が共同でお金を出し合い、ケーブルを建設・所有するモデルです。例えるなら、複数世帯でお金を出し合って一つの巨大なマンションを建てるようなもの。各社は出資比率に応じて、マンションの部屋(通信帯域)を所有する権利を得ます。 もう一つが「プライベート型」。こちらは、GoogleやMeta、Amazonといった「ハイパースケーラー」と呼ばれる巨大IT企業が、自社の資金で単独、もしくは少数のパートナーとケーブルを建設するモデル。先ほどの例で言えば、自分たち家族のためだけに一戸建てを建てるイメージです。この背景には、彼らが世界中に持つデータセンター間を結ぶ通信量が爆発的に増加し、他社のインフラを借りるよりも自前で建設した方が効率的になったという事情があります。 かつてはコンソーシアム型が国際通信の主役でしたが、2010年代後半からGAFAによるプライベートケーブルの建設が急増。今や、世界の通信インフラ地図は、この2つのモデルが複雑に絡み合いながら描かれています。 ## 「皆で船を出す」伝統のコンソーシアム型とは? では、伝統的なコンソーシアム型は具体的にどのように運営されるのでしょうか。このモデルでは、プロジェクトの中心となる「幹事会社」が選ばれ、参加企業間の調整や建設計画の推進役を担います。日本のNTT、KDDI、SoftBankといった通信大手は、長年にわたり数多くのコンソーシアムでこの重要な役割を果たしてきました。(出典: 資料1) 参加企業は、まずケーブルの設計容量(総帯域)を決め、それぞれが必要な容量を表明します。そして、総建設費を確保した容量に応じて分担するのです。例えば、総工費500億円のケーブルで、A社が10%の容量を確保すれば、負担額は50億円となります。これにより、一社では負担しきれない巨額のコストと事業リスクを分散できる。これがコンソーシアム最大のメリットです。 出資した企業は、その対価として「IRU(Indefeasible Right of Use)」、日本語で「取消不能使用権」と呼ばれる権利を取得します。これは、ケーブルの設計寿命(約25年)が尽きるまで、購入した帯域を自社のものとして独占的に利用できる非常に強力な権利。いわば、分譲マンションの部屋の所有権のようなものです。(出典: 資料1) しかし、多くの企業が関わるからこそのデメリットも存在します。ルートの選定から容量の配分まで、参加企業すべての合意を取り付ける必要があり、意思決定に数年を要することも珍しくありません。各社の思惑がぶつかり、計画が遅々として進まないことも。そのスピード感は、市場の変化に対応する上で課題となる場合があるのです。 ## SoftBankが牽引するアジアの新しい大動脈「ADC」 そうしたコンソーシアム型の課題と、ハイパースケーラーの需要をうまく取り込んだ最新事例が、2024年に運用を開始した「Asia Direct Cable(ADC)」です。このケーブルは、千葉県南房総市の丸山陸揚げ局から、香港、フィリピン、ベトナム、タイを経由し、シンガポールまでを結ぶ総延長約9,400kmのアジアの新たな基幹ルート。(出典: 資料2) このプロジェクトを主導したのが、日本のSoftBankです。参加メンバーにはシンガポールのSingtelや中国のChina Telecomなど伝統的な通信キャリアが名を連ねる一方、ADCは当初から巨大IT企業の利用を強く意識して設計されました。SoftBank自身が通信事業者でありながら、ハイパースケーラーのニーズを深く理解し、両者の橋渡し役を担うというユニークな立ち位置を取っています。(出典: 資料2) ADCが持つ設計容量は毎秒160テラビット(Tbps)以上。光ファイバー8対(8ファイバーペア)で構成されるこの大容量は、まさにDX(デジタルトランスフォーメーション)が急速に進む東南アジアの旺盛なデータ需要に応えるためのもの。経済成長著しいこの地域では、動画配信やクラウドサービスの利用が爆発的に伸びており、国際通信の帯域が常に求められています。 注目すべきは、香港に陸揚げ局を置いている点です。米中対立の激化により、米国政府は近年、香港を経由する新規海底ケーブル計画に難色を示してきました。その中でADCは、アジア域内完結のルートとして計画を推進し、開通にこぎつけました。地政学的な緊張を乗り越え、アジアの経済圏を結びつける重要なインフラとしての役割を担うのです。 ## MetaとNTTが再びタッグ、日米を結ぶ次世代ケーブル「E2A」 一方、ハイパースケーラー主導の動きを象徴するのが、2027年の運用開始を目指す「E2A」ケーブルです。このプロジェクトは、MetaとNTTグループが共同で建設を進める、日本と米国西海岸を直接結ぶ新たな太平洋横断ルート。(出典: 資料3) MetaがNTTと組むのは、2020年に開通した「JUPITER」ケーブルに続いて2度目です。なぜ巨大IT企業であるMetaが、日本の伝統的な通信会社と手を組むのか。その理由は、NTTが持つ海底ケーブル事業における長年の経験とノウハウにあります。ケーブルを陸に引き込む「陸揚げ局」の保有、複雑な許認可の取得プロセス、そして世界トップレベルの建設・運用技術。これらは、Meta一社では容易に獲得できない資産です。(出典: 資料3) E2Aのルート設計は、極めて戦略的です。千葉の丸山と三重の志摩から、韓国の釜山、台湾の頭城(とうじょう)を経由し、米国のカリフォルニアへと至ります。特に、地政学リスクが指摘される台湾を含んでいる点は重要です。万が一の紛争時などに通信が途絶するリスクを抱えつつも、台湾の持つ半導体産業やデータセンターのハブとしての重要性を考慮し、あえてルートに組み込んだと考えられます。多様なルートを確保することで、ネットワーク全体の冗長性を高める狙いがあるのです。 そして特筆すべきは、16ファイバーペアというその圧倒的な容量。これは従来の太平洋横断ケーブルの2倍に相当する規模であり、Metaが今後本格化させるAI開発やメタバース(仮想空間)サービスで必要となる、膨大なデータ通信量を見越した設計です。ケーブル名の「E2A」は公式には発表されていませんが、業界では「East Asia to America」あるいは「Edge to America」の略ではないかと囁かれています。(出典: 資料3) ## 宇宙より未知?深海に眠るデジタル社会の未来 近年、イーロン・マスク氏率いるスペースX社の「スターリンク」など、衛星を使ったインターネット通信が話題を集めるようになりました。しかし、こと大容量の基幹通信においては、今後も海底ケーブルの優位性は揺るぎません。光ファイバー1本で毎秒数百テラビットもの情報を低遅延かつ安定的に伝送できる能力は、衛星通信の追随を許さないからです。 私たちが今、目にしているのは、デジタル社会の物理的な基盤をめぐる新たな競争の始まりです。コンソーシアムで協調する道を選ぶのか、あるいはプライベートで覇権を握るのか。そして、地政学的な緊張が高まる中で、いかにしてこの重要なライフラインの安全性を確保していくのか。 人類は宇宙を目指し、火星への移住計画まで語られるようになりました。しかし、私たちの足元、平均水深3,800メートルの深海にこそ、現代文明を支える最も重要なインフラが眠っています。その存在に思いを馳せるとき、SNSのタイムラインや動画配信サービスの向こう側に、壮大な海の底の物語が広がっていることに気づかされるのです。

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よくある質問

海底ケーブルの建設費用は、具体的にどれくらいかかるのですか?
ケーブルの距離や容量によりますが、数千km規模の国際ケーブルでは総工費が数百億円から1,000億円を超えることも珍しくありません。この巨額な費用を、コンソーシアム参加企業や建設主体のIT企業が負担します。
GoogleやMetaはなぜ自前で海底ケーブルを建設するのですか?
自社のデータセンター間でやり取りする膨大なデータを、安定的かつ低コストで伝送するためです。他社の回線を借りるより、自前で所有した方が長期的なコストを抑えられ、需要に応じて柔軟に容量を制御できるメリットがあります。
海底ケーブルがサメに噛まれるというのは本当ですか?
過去にはサメがケーブルに興味を示して噛みつく事例が映像で確認されていますが、故障原因としては極めて稀です。現代のケーブル故障の主な原因は、漁業活動(底引き網など)や船の錨(いかり)による物理的な損傷がほとんどを占めています。

出典

海底ケーブル通信インフラGAFANTTSoftBank