海底ケーブルの寿命は25年 — なぜ短いのか、延命技術と廃棄後の運命

海底ケーブルの寿命は25年 — なぜ短いのか、延命技術と廃棄後の運命

基礎から押さえる

数億ドルをかけて建設される海底ケーブル。その設計寿命はわずか 25 年だ。スマホの買い替えサイクル(3〜4 年)と比べれば長いが、450 億円以上の投資に対しては短く感じるだろう。なぜ 25 年なのか、寿命が来たらどうなるのかを解説する。

なぜ 25 年なのか

25 年という数字は「壊れるまでの時間」ではなく、3 つの要因から逆算された 設計上の上限 だ。

  • 中継器の半導体劣化: 中継器は数千ボルトの直流電力で 24 時間 365 日駆動される。内部のポンプレーザーやEDFA の半導体は、通電時間に比例して劣化する。25 年(約 22 万時間)が設計マージンの限界とされている
  • 光ファイバーへの水素侵入: 微量の水素がケーブル内部に浸透し、光の伝搬損失(特に 1,383nm 帯の OH 吸収)が徐々に増大する。製造時に水素バリア層を設けるが、25 年程度で性能が設計値を下回り始める
  • 技術の陳腐化: 通信容量の需要は年率 30〜40% で増加している。25 年前のケーブル容量は現行世代の 1/1,000 以下。維持するよりも新設した方が経済合理的になる

世代交代の経済学

具体的な数字を見ると、技術進歩の凄まじさがわかる。

  • 1996 年: TPC-5(日米間)設計容量 10Gbps
  • 2001 年: PC-1 容量 7.68Tbps
  • 2020 年: JUNO 容量 350Tbps
  • 2025 年: 次世代ケーブルは 500Tbps 超

30 年で 50,000 倍。古いケーブルの帯域を月額換算すると、新設ケーブルの数十倍のコストになる。「もったいないから使い続ける」が逆にコスト高になるのだ。

延命技術 — Wet Plant Upgrade

25 年の寿命はケーブル全体を交換しなければならないことを意味するのか? 必ずしもそうではない。「Wet Plant Upgrade」と呼ばれる延命技術がある。

ケーブルの陸上側にある端局装置(SLTE: Submarine Line Terminal Equipment)を最新のものに交換することで、海底の光ファイバーと中継器はそのまま、伝送容量を数倍に引き上げることができる。コヒーレント伝送技術やデジタル信号処理(DSP)の進歩により、同じ光ファイバーでもより高密度な変調が可能になったためだ。

ただし、光ファイバーの物理的劣化(水素侵入による損失増加)は避けられず、延命にも限界がある。一般的に設計寿命を 5〜10 年延長するのが現実的なラインとされている。

廃棄ケーブルの 3 つの運命

寿命を迎えたケーブルは、以下のいずれかの運命を辿る。

  1. 海底に放置(最も一般的): 深海部のケーブル回収は技術的にもコスト的にも非現実的なため、そのまま海底に残される。環境への影響は軽微とされているが、一部の環境団体は懸念を示している
  2. 浅海部の回収・リサイクル: 沿岸部のアーマー付きケーブルは銅と鉄の価値があるため、回収されてスクラップとして売却される。ケーブル船の空き期間を利用して回収作業が行われることが多い
  3. 科学観測への転用: 最も興味深い「第二の人生」だ。使われなくなった光ファイバーをDAS(分布型音響センシング)に転用し、海底地震計として再利用する研究が進んでいる。光ファイバーに入射したレーザー光の後方散乱パターンから、地震波や鯨の鳴き声まで検出できる。世界各地で実証実験が行われており、既存のケーブルインフラを海洋観測網として活用する構想が現実になりつつある

持続可能なサイクルへ

25 年の寿命は短いように感じるが、見方を変えれば海底ケーブルは 25 年ごとに容量が数千倍になるアップグレードサイクル を回しているとも言える。旧世代のケーブルが退役し、マルチコアファイバーを搭載した新世代に置き換わる。そのプロセスが、世界の通信容量を指数関数的に拡大させてきた原動力なのだ。

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出典

海底ケーブル寿命中継器光ファイバーメンテナンス