海底ケーブルの給電システム — 深海にコンセントはない、15,000Vの直流送電
基礎から押さえる
海底ケーブルの中継器(光増幅器)は約 60〜80km 間隔で設置され、25 年間ノンストップで動作し続ける。だが水深 4,000m の深海にコンセントはない。電力はどこから来るのか? 答えは意外にシンプルだが、その実現は驚くほど高度な技術だ。
陸から海底まで、銅管で送電
海底ケーブルの断面を見ると、中心の光ファイバーを包むように 銅管(銅チューブ) が走っている。この銅管はデータ伝送には一切関与しない。その主な役割は 電力の導体 なのだ。
陸揚げ局に設置された PFE(Power Feed Equipment: 給電装置)が高電圧の直流電力を銅管に流し、数千 km 先の中継器まで電力を届ける。リターンパス(帰路)は海水そのもの。銅管→中継器→海水→陸揚げ局のアースという回路が形成される。
電圧はなんと最大 15,000V
太平洋横断ケーブル(距離 9,000km 以上、中継器 100 基以上)の場合、両端の陸揚げ局からそれぞれ 6,000〜15,000V の直流電力を供給する。家庭用コンセント(100V)の 150 倍だ。
なぜそこまでの高電圧が必要なのか。中継器 1 基の消費電力は意外に小さく、約 10〜50W(LED 電球 1〜5 個分)。しかし 100 基が直列接続されており、さらに数千 km の銅管の電気抵抗による電圧降下がある。すべての中継器に十分な電力を届けるには、送出端で高電圧が必要になるのだ。
ケーブル全体の消費電力は典型的に 10〜20kW。一般家庭 3〜5 軒分に相当する。太平洋を横断する通信インフラの電力が、わずかこれだけで済んでいるのは驚くべきことだ。
なぜ直流なのか
家庭や産業用は交流(AC)が主流だが、海底ケーブルは直流(DC)一択だ。理由は 2 つある。
- 容量性リアクタンスの回避: 海底ケーブルは構造的に巨大なコンデンサだ。銅管(導体)と海水(導体)の間にポリエチレン(絶縁体)がある。交流を流すと、このコンデンサが充放電を繰り返し、電力の大半が無駄に消費される。直流ではこの問題が発生しない
- 中継器回路のシンプル化: 中継器内部のEDFA(エルビウム添加ファイバー増幅器)のポンプレーザーは直流で駆動する。交流から変換する AC-DC コンバータが不要になり、故障リスクが減る。25 年間メンテナンスフリーを実現するには、部品点数を極限まで減らすことが鍵だ
片端給電と両端給電
給電方式には 2 つの構成がある。
両端給電(主流)
ケーブルの両端から電力を供給する方式。太平洋横断ケーブルではこれが標準だ。例えば日本側から +7,500V、米国側から -7,500V を供給し、ケーブル中央部の電位をゼロにする。
最大のメリットは 冗長性。片方の陸揚げ局の給電装置が故障しても、もう片方からの給電でケーブル全体の約半分の中継器を動作させ続けられる。通信容量は低下するが、完全な通信途絶は避けられる。
片端給電
短距離のケーブル(数百 km 程度)で使用される。1 つの陸揚げ局からのみ給電するシンプルな構成。建設コストは低いが冗長性がなく、給電装置の故障=全通信停止となるリスクがある。
ケーブル切断時の給電
ケーブルが物理的に切断されると、銅管も断裂し給電回路が途切れる。この場合。
- 両端給電: 切断点の両側それぞれで、最寄りの陸揚げ局からの給電が維持される。切断点の手前までの中継器は動作を続け、部分的な通信が可能な場合もある
- 片端給電: 切断点以遠のすべての中継器が電力を失い、即座に通信不能になる
中継器の驚異的な信頼性
中継器は 水圧数百気圧、水温 1〜4℃ の環境で 25 年間メンテナンスフリーで動作し続ける。これは宇宙探査機に匹敵する信頼性要件だ。
設計のポイントは半導体の エージング(経年劣化)マージン。ポンプレーザーの出力は時間とともに低下するため、初期出力を必要値より大幅に高く設定し、25 年後の劣化分を織り込む。また、冗長なレーザーダイオードを搭載し、主系が故障しても自動的にバックアップに切り替わる設計が採用されている。
ケーブルの構造もこの信頼性を支えている。中継器の筐体はベリリウム銅やチタン合金製で、深海の水圧に耐えつつ内部を完全に密封する。まさに「海のスペースプログラム」だ。
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出典
- ISCPC: 海底ケーブルの給電技術