紅海で海底ケーブル3本が同時に損傷 — フーシ派攻撃の余波と地政学リスク
まず読む基礎解説
2024 年 2 月、紅海で 3 本の海底ケーブルが相次いで損傷した。AAE-1、Seacom、EIG(Europe India Gateway)の 3 本が影響を受け、アジア-欧州間の通信に混乱が生じた。世界のインターネットトラフィックの約 25% が通過するこの海域で起きた事件は、海底ケーブルの 地政学リスク を世界に突きつけた。
紅海は海底ケーブルの大動脈
紅海からスエズ運河を経て地中海に至るルートは、アジアと欧州を結ぶ海底ケーブルにとって 最短経路 だ。このわずか幅 355km の海域に 16 本以上のケーブル が集中している。
このルートを通過する主要ケーブル:
- AAE-1(Asia Africa Europe-1): 香港〜フランス間 25,000km
- SEA-ME-WE 5/6: シンガポール〜フランス間の大動脈
- EIG(Europe India Gateway): インド〜英国間
- Seacom: アフリカ東海岸〜欧州
- PEACE(Pakistan East Africa Cable Express): パキスタン〜フランス
なぜこの狭い海域に集中するかというと、スエズ運河が地中海とインド洋を結ぶ唯一の「近道」だからだ。喜望峰(南アフリカ)を迂回すると距離が 6,000km 以上 長くなり、遅延もコストも大幅に増加する。
フーシ派の攻撃と海底ケーブル
2023 年末から、イエメンのフーシ派がイスラエル・ハマス紛争に連帯する形で紅海の商船を攻撃し始めた。ミサイルやドローンによる攻撃で複数の貨物船が被害を受け、国際海運に深刻な影響が出ていた。
この状況下で 3 本のケーブルが損傷した。フーシ派は海底ケーブルへの直接攻撃を 否定 している。調査の結果、以下の可能性が指摘されている:
- 沈没・漂流した船舶のアンカー がケーブルに引っかかった
- 攻撃を受けた貨物船が 緊急投錨 した際にケーブルを損傷
- 通常の海上交通の混乱(船舶の迂回や異常な航行パターン)によるアンカー事故
直接的な証拠は見つかっていないが、紛争地域における海底ケーブルの脆弱性が改めて浮き彫りになった。
迂回ルートの発動
損傷したケーブルのトラフィックは、以下のルートに迂回された:
- 喜望峰回り: 南アフリカ経由の迂回ケーブル。距離が長いため遅延は増加するが、容量は十分
- 太平洋ルート: アジア→太平洋→北米→大西洋→欧州の「地球を逆回り」するルート
- 衛星リンク: 一部の緊急トラフィックは衛星回線に切り替え
紅海の 16 本のうち 3 本が損傷しただけでトラフィックは迂回可能だったが、遅延の増加(10〜30ms 程度)と 帯域コスト の上昇は避けられなかった。もし 16 本すべてが同時に損傷する事態になれば、影響はアジア-欧州間の通信全体に及ぶ。
修理の困難さ
ケーブル修理には修理船の派遣が必要だが、紛争地域では修理船の安全確保が最大の課題になった。フーシ派が商船を攻撃している海域に民間の修理船を送ることは、乗組員の安全上のリスクが高い。
修理船はイエメン沿岸当局との交渉や国際的な安全保証を取り付けた上で、慎重に作業を進める必要があった。通常 2〜4 週間の修理が 数ヶ月 に長期化するケースも発生した。
地政学的な教訓
紅海の事件は、海底ケーブル業界に以下の教訓を残した。
- チョークポイントリスク: 紅海、マラッカ海峡、スエズ運河など、ケーブルが集中する狭い海域は地政学リスクに脆弱。ルートの分散が急務
- 北極海ルートへの関心: 紅海リスクの顕在化により、Far North Fiber 等の北極海ケーブル計画への関心が急上昇。紅海・マラッカ海峡を完全に迂回できる「第三のルート」として注目
- 海底ケーブルの安全保障化: NATO や EU が海底インフラの防護強化を議論開始。1884 年の条約が想定していなかった「意図的破壊行為への対策」が新たな課題に
- 修理インフラの課題: 紛争地域での修理船運用の難しさが露呈。修理船の安全確保に関する国際的な枠組みの必要性
海底ケーブルは「海の中に隠れている」がゆえに、これまで地政学の議論で見過ごされがちだった。紅海の事件は、海底ケーブルが 国際安全保障の重要インフラ であることを世界に知らしめた。
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出典
- SubTel Forum: 紅海の海底ケーブル損傷に関する報道